※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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現在、世界に魔女はおよそ10人程度しかいない。
明確な統計を取っている訳ではないが、歴史の中で数を増減させてきた魔女は、平和な時代を迎えると大抵最後はそのあたりの数に落ち着く。
災厄を呼び、忌むべきとされるのが定めのような魔女だが、だからこそ乱世を生き抜いた彼女達は人並外れた処世術か、もしくは平和な時代への適合を成功させた一握りの存在となる。
実際、平穏の時代の国家にはたびたび王家や国を歴史の陰から支える宮廷魔術師が存在しており、それらの中には魔の因果を切り拓いた魔女だった者もいたと、そう語られている。
無論、そうはならない魔女もおり、彼女たちは世間に溶け込む事も、世界の敵に回る事もなく、ただひっそりと魔女狩りに遭わないように平和の片隅で生を営んでおり、そうして魔女という存在を繋げているのだ。
リンドウに魔法の師だったマスターがいたように、アザミにも魔女としての師匠がいた。
そしてそんな時代だからか、二人は友人であり、必然的にその弟子たちのリンドウとアザミもまた友人であった。
丁度二人が魔術師として一人前だと認められた頃。それはリンドウの26年の人生の中で、ほんの一時、それこそ流れ星が煌めくが如く刹那のような一年間であったが、二人は冒険者のように世界を渡り、そして悪意の魔導書撲滅のため、多くの悲劇を焚書してきた。
最後は共に魔女の運命に翻弄されるように、二人の師匠は悲劇的な別れとなってしまったが、それでもその弟子たちは生き延びた。互いに生きていると知ったとき、リンドウは本当に嬉しかったのだ。
「…ということがありまして。その後は専門用語出まくりの魔術談議に花が咲いちゃったのか、私にはさっぱりで…。」
「なるほど…それで遅くなって、リンドウ殿も呆けている、と。」
結局リンドウたちの話が長引いて、アスカたちがヴェリナード国の女王の前に戻って来れたのは予定より1時間もオーバーしてからだった。お互い用事があるから、最後は互いに連絡先を交換してから再会を約束して別れたらしい。魔法戦士団の代表として、ディオーレ女王の傍で待っていたユナティも、仕方ないなとため息を零す。
「さて…リンドウさん。私は一旦失礼させて頂きますね。」
「ああ。お迎えご苦労様。感謝するよ、アスカ殿。」
アスカはあくまでリンドウの迎えが任務であったので、終了の報告の為に一旦会議室からは退出することとなった。今までのやり取りからも、特に棘のある性格では無く、軍の人間にしては真面目で素直な良い子だ…とリンドウはぼんやり思っていた、が。
「…ところで、その大砲は一体。」
「これですか?いえお気になさらず。ちょっと仕事をサボって一週間を無駄にした総司令のお仕置きに借りようかと。」
別れの挨拶に来たアスカを見ると、台に乗せられた大筒一門をゴロゴロと笑顔で引っ張っていた。大砲で、お仕置き。
「…ええと、あまり近距離で撃ってやるなよ?」
「大丈夫です。総司令が弾ですから。」
「…ああ、そう…?」
では、お疲れ様でした。そうどこか晴れやかにすら見える彼女の大筒を運び出す動きは実に慣れたもので、あれだけ重いものを一人で転がして何のつっかかりもない。
取り敢えず、優秀な部下を貰ってよかったな、ロスウィード。約一時間後、ヴェリナードの空を悠然と発射された総司令官の叫びを、リンドウは終ぞ知る事は無く、もしかしたらアイツMなのかもしれないな。そんな事をぼんやり思った。