※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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「来い、熱月人形(テルミドール)!」
アザミが高らかに方向を飛ばすと同時に、周囲の地面がせり上がり人型に組まれていく。完全な人型とはいかず、あちこちの関節や部位が歪に尖って積まれていくそれは、人と呼ぶよりはむしろ土人形(ゴーレム)と呼び変えた方が相応しい。
それらが一体、二体、土砂と岩石の塊が顕れて、やがて集団と相成り各々が獲物と武器を構えてリンドウの元へと向かっていく。土塊の人形たちの瞳は脈動し、確かにこちらに殺意を向けていた。
が、それよりも早くリンドウの周囲には数多くのオーレリーが既に展開済みであった。しかし空間に広く位置しながら、浮かぶ球体自体に直接迎撃する機能は無い。
「拡散(スペクトル)。」
が、リンドウにとってはそれだけで十分な対軍迎撃体勢。両腕を交差させ、人差し指からそれぞれ一本の光線が瞬く。と同時に、一本だったはずの光線は突如複数に割れ放ち、オーレリーによって乱反射して敵群へと届き、爆発によってゴーレムを砕き土砂へと返していった。
しかし、破壊されなかったゴーレムたちがいる。ファランクスの兵団だ。それも、速い!光線を凌ぎながら直進してくるが、並みの盾ならばリンドウの練り上げられた光線の魔法など防ぎようもない。どう見てもそれらゴーレムの耐久力や構える盾のレベルは100を下らない。大した防御力だ。
ならば下から壊してやる。
「超新星(スーパーノヴァ)。」
カッ、とゴーレム達の足元から眩い光を放ったソレは、オーレリーを爆発に特化した魔術だった。正面からの光しか防ぐ術を持たない盾兵たちは、下からの爆発に為すすべなく爆散し、瓦礫へと積み代わっていく。それらは土石流のようにアザミの兵の行く道を遮り、砂埃と質量によって視界を奪っていった。
そしてそれを邪魔だと言わんばかりに、複数のゴーレムが堆積した土塊に突っ込んでいく。兵としては人並み外れた巨躯と言えど、さすがに押せはしない。ならば吹き飛ばせばいいだろう、というアザミの思考を理解したのは、爆音に微かに混じっていたカチ、カチと機械仕掛けに時を刻む時限爆弾の音が聞こえた時だった。
ゴオオオオッ!ゴーレムそのものを爆弾とした攻撃は自身ごと土石流を吹き飛ばす。間一髪爆発は躱せたリンドウだが、飛んでくる土砂や岩石の破片は避け切れない。目の舌を掠るがどうにかまだ血は流さずに済んだ。
「叩き潰せ!」
息もつかせぬゴーレムたちの波状攻撃を凌ぐリンドウだが、アザミの攻勢への加速は止まらない。散々ゴーレムの大量生産に注力していたアザミが作り終えていたものは、高く大剣を構えたゴーレムだった。全身全霊斬り。しかし斬るためではない。太い刀身によって叩き潰すための刃だ。避けるには遅く、躱しても衝撃で吹き飛ぶ方が早いだろう。
だったら突っ込め!そう頭が判断する前に、身体は動いていた。瞬間的な肉体強化の魔術が発動すると同時に、まるで発射されたかの如く速度で大剣を構えたゴーレムの懐に潜り込り、そしてオーレリーによる光線の爆撃をお見舞いしてやる。上空を指す大剣が振り下ろされる事はなく、砕けたゴーレムの破片が吹き飛ばされ、今度はアザミの頬を掠り髪を刻んだ。
追撃のチャンス。すぐさまそう判断したリンドウは、複数のオーレリーによる竜星群(スターゲイザー)の発動に移り構えようとした。が、即座に背筋に悪寒が走り、それと同時に足元の地面が直接割れた。亀裂から這い出てきたのは、掌。そして五本の指であり、リンドウは次の瞬間にはその手の上に乗せられていた。そして指が動く。中心へと勢いよく畳まれていく。
そうして握り潰される前に、リンドウは飛び上がり魔法の箒へと飛び移った。光線の雨を放つ数舜前であったので、オーレリーは体勢の崩れたリンドウに追従するように向きを崩し、バラバラの方向にビームが放たれる。が、それが偶然にもアザミの背後の木々を撃ち抜き、巨木がメキメキと音を立ててアザミの方へ倒れ込んだ。リンドウへの攻撃の意思をすぐさま中断し、ゴーレムによって倒木を跳ね返して自身を守る。
その隙にリンドウは箒に乗ったまま距離を取る。と同時に、閃光弾と煙幕も使用された。高速で移動したリンドウへ追撃を仕掛けるのは防がれ、互いの間に距離が生まれる。大山林の木々にも阻まれ、アザミはリンドウの位置を完全に見失った。