※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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「痺れ砲弾行くぞ!準備しろ!」
絶え間ない怒涛の攻勢。ヴェリナード海軍の私掠船からの艦砲射撃による遠距離からのプレッシャーを掛け、リンドウが中距離からの関節攻撃を仕掛ける。
アザミが出したゴーレムは全て砲撃によって薙ぎ払われ、自慢のゴリアテもただのデカい砲撃の的だ。
そして土属性の魔法も、魔力消費を抑える要である龍脈そのものを砲撃によって土地を荒らしズタズタにしてしまえば、素早く魔術を展開する余裕はない。
魔法戦士団連続殺人において、遺体のすべては土砂に呑み込まれ埋められたものが大半だった。その点からヴェリナードは、敵が土属性の使い手と目星はつけられていたが、今回リンドウの話によってアザミはギロチンワイヤーも武器の一つとしていたことが明らかになり、そして連続殺人は自身の手の内を隠すフェイクだった可能性がでてきたのだ。
「多分、アザミは近距離の方が得意なタイプですよね。魔法使いとは思えませんね。」
「アレは魔女だよ。我々の常識で縛らない方がいい。」
ロスウィードのとアスカの会話を耳に挟みながらの作戦行動は初めてであったが、大方ミャジも同じ感想だった。おそらく魔法使いと侮って近づいた敵はワイヤーによって細切れにされるのが関の山なのだろう。
リンドウの情報通りだったが、改めて魔女の恐ろしさを知る。本当に、職業の魔法使いとは別種の存在なのだろう。
が、そのワイヤーも破壊力はあれど射程が短い。そして中距離以上の戦闘は、要に用いられるゴーレムは砲撃によって抑えられ、龍脈も読み取るのに時間がかかるのでほぼ封じている。
簡単に言っているように見えるが、ゴーレム出現と砲撃の着弾のタイミングをどんぴしゃに計っているロスウィードは流石の冷静さである。指一本動かすことなく、完全にあのアザミを手玉に取っている。
「はあっ…!は、あ、ああ…っ!!」
一方、アザミは肩で息をしていた。単純に全力で体を動かしている証拠だ。
勝てない。アザミはそれを理解してしまった。
だがそれ以上に、このままでは魔力の消耗も相まってスタミナ切れで動けなくなってしまう。やはり持久戦は駄目だ。四の五の言っている暇はない。逃げるしかない。
一気に撤退したいところだが、アザミは空路を取らず動きにくい森の中を徐々に撤退していた。
森の中ではリンドウが間接攻撃を狙って来るが、何よりも艦砲射撃の威力が脅威だった。ウェナ諸島の土地を容赦なく傷つけることすら一切の躊躇いのない砲撃の嵐。強化砲弾もだが、動きそのものを封じられる痺れ砲弾は特に確実に避けたい。砲弾の種類を見極めることもできない。
だから地上を選んだ。居場所を曝け出していれば逃げ切るのは不可能に近い。
アザミは本能的に感じ取っていた。ゴーレムを封じられた今、軽率に空を飛んで逃げれば、死ぬと。
それほどまでに、ヴェリナード海軍の射撃は正確無比だった。否、撃つほどに精度が上がっているのだ。
「魔法戦士団を華たらしめているのは、日々の地道な努力と、一人一人の盤石な技術なんだよ。そこに派手さはなくてもな。」
魔法戦士団は何も、流麗な剣術や派手な魔法だけではない。
集団による砲弾の着弾地点の誘導。攻撃に巻き込まれないためのフィジカルキャンセラー。相手が気付かぬほどの微細な弱体魔法の連打。そして、冒険者のパーティーにも負けぬほどの集団戦による完璧なチームワークと意思疎通。それら地道な技量の積み重ねこそが、魔法戦士団の鮮やかで美しいほどの戦闘技術を確立させていた。
それらに裏打ちされた完璧な作戦遂行は、確実にアザミを追い詰めていた。正確無比な上、威力も明らかに街中で使われている防衛軍の砲台とは桁が違う。それは絶対に回避しなければならない。それに比べれば、リンドウの間接攻撃はツーアクションかかる分まだ捌きやすかった。
だが、ここからどうする?逃げてばかりで逃げ切れるのか?振り切れるのか?相手はまだ手の内のカードを切っていないかもしれないのに?
焦るが妙案は浮かばない。酸欠気味の脳は打開策を出してはくれなかった。
おまけに恐怖も手伝っていた。アザミは「恐怖慣れ」をしていないのだ。こればかりは場数を踏まねばどうにもならない。
苦しい。苦しい。
怖い。逃げたい。逃げねば。
なんとかしないと。なんとか…しなければ。
とにかく今はもっと、森の奥に…。
狙いにくいように…。
そして何か策を打たなければ…。
体力が尽きる前に…。
早く…。早く…!