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英雄の魔女

リンドウ

[リンドウ]

キャラID
: HS978-681
種 族
: 人間
性 別
: 女
職 業
: 旅芸人
レベル
: 121

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リンドウの冒険日誌

2020-06-13 20:45:14.0 テーマ:その他

【過去編】第5話『もしも光を越えたなら④』


傍目には美しく、超高速なこの戦闘は、本人たちにとっては地獄の"遅さ"であった。
過敏な感覚と、過剰速度による空気抵抗。
このせいで空中を進むことすら、まるで水中に溺れぬよう、藻掻き進むが如き抵抗を感じさせた。手足が鈍い。呼吸が重い。思考の速度すら苛立ちを覚える。
感覚は研ぎ澄まされ、相手の動きの一挙手一投足がはっきりと目視でき、あらゆる刺激がスローに感じる。
しかし、身体がついてこない。遅々として進まない。空気が粘土のようにまとわりつき、ただただ焦燥感が募っていく。

特に焦りを見せていたのは、リンドウの方だった。

(ヤバ、い…!もう息が…!)

人間の行動範囲を超えた高速戦闘により、ごく普通の呼吸すらままならなくなる。酸素が回らず、喉に焼き付くような痛みが走り、思考速度すら奪われ落ちていく。魔力の方が万全でも、魔術を扱う肉体の方がついていけないのでは話にならない。
だが一方で、息を吐く事すら手一杯になり始めたリンドウをよそに、アザミの表情はこの剣劇の中で一切の表情の曇りすらも見えない。まるで機械のように、リンドウの攻撃の悉くを切り刻んでいた。

(くそ…こいつ…!なんでこんなに動ける!?どこにそんな体力が…、!)

ふと、ワイヤーの狭間に微かに見えた、アザミの身体から突き出るワイヤーのような糸…メタルケーブル。要するにそれは、自分を操り人形にするという事。

(こいつ!自分を自分で操っているのか!もう限界越えて自力じゃ動けないから、無理矢理っ!馬鹿かお前っ!)

魔女の身体は魔力依存だが、肉体や物理法則から完全に切り離せている訳ではない。体力でも動くのだから、肉体を操り人形に改造などすれば、肉体の方に致命的な後遺症が残る。最悪、魔力をチューブによって繋がれ生かされ続けるような、植物状態に等しくもなるだろう。
それでも、アザミの動きには一切の迷いすらなかった。初手で演じたお粗末な三文芝居はもう打たない。単純に愚直に真っ直ぐに、リンドウを討つことだけに全神経を尖らせている。

よくよく考えてみれば、ヴェリナード海軍の猛攻を一身に浴び続け、出血や疲労などで心身共にズタズタの状態だったのだ。外付けの魔力を確保できたとはいえ、多少肉体の損傷を無視してでも動かさねば戦う事すらできないはずだ。
すべてを加味し、機械仕掛けの人形のように冷静かつ、躊躇う事のない捨て身に近い荒業。その執念は確実に、要所要所で息の乱れ始めたリンドウを押していく。
だが、それでも。

ガクン。

「「!」」

終焉は、唐突にやってくる。先に膝をついたのは、アザミの方だった。

(魔力、切れ…!)

解っていたこと。無限の魔力を生成できる賢者の石を持つリンドウ相手に、消耗を強いられれば先に落ちるのは、アザミの方だ。急激に動きが鈍り、脚が震え始め指すら上げることもできなくなる。

「まだよっ!見くびるな!無尽蔵のお前に捌かれ続ければ、こうなるのは自明の理!だからこそ!魔力が尽きた時は、これを使うと決めていた!」

それは、正真正銘、最後の切り札。それの名を、アザミは遂に口にした。

「 "禁呪の解放を宣言する!" グリモワよ!貯蔵魔力を解き放て!!」
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