陽動班と別れたすぐの数秒後に派手な落雷や爆発の音が、狭い村内で遠慮なくぶつかり合う。
向こうのメンバーを見るに、派手に立ち回るのはライティア、かいり、ライオウの三名と言ったところ。リンドウは今回全体の指揮とサポートに回り、アヤタチバナが回復と護衛、ミャジが観測といったところだろう。
大雑把ではあるが、的確なメンバー選出と指揮だとバウムは思う。食客前は一匹狼だったらしいが、ここまで集団戦を重んじようとする姿勢は並みの魔術師ではできないだろう。というか、本当にリンドウは集団戦の経験浅いのかな?
いや、違うんですよバウムさん。多分読者も同じような疑問抱いてたかもしれないですけど、ここ数年で彼女も頑張ったんですよ。
恐るべきは努力の天才、リンドウの学習意欲と呑み込みの早さ。そして何よりヴェリナードの抱える教育者の人材の多さよ。
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さて、きっと今頃怨霊たちは陽動組にてんやわんやだろうが…こういう場合、派手な動きに騙されてはいけない。往々にして、陽動組よりも隠密行動…移動や携行、侵入と脱出に適した探索組の方が戦略的には致命傷を負う場合が多いのだから。
「皆さん、いいですか?村内の移動はねるさんが案内します。大丈夫と思いますが、スーツで防護できるネコギシさんに先導してもらいますね。」
「オーケー。」
「は、はい。」
「…なんかねるさん、私にだけ固くないです?もっとフランクでいいですよ?」
「…本能が全力でヤバい人だと忠告してくるので。」
「なるほど~。」
否定はしない。
ブラオバウム。千手混沌の魔導士。
古来より、勇者やら英雄やらの戦いには、派手な魔法、強大な技がつきものだ。時にそれらは冒険譚の代名詞ともなり、お伽噺のように後世へと語り継がれていく。
しかし、それらは往々にして、勇者だからとか、天才だからとか、選ばれた者だからとか、さも限られた者にしか扱えない代物と割り切って、深追いさせないようにと魔術への研鑽を阻まれてきた。
化け物を倒した者は化け物以上の化け物理論。怪物を打ち倒した力を恐れ、そういった勇者たちを次の悪に仕立て上げ、技とともに志をも滅ぼしていく。よくありふれた、つまらない悲劇。
彼はそんな倫理観を許さない。人の好奇心、探求心、冒険心。そういうものは決して誰にも縛られるべきものではないし、否定されるものでもない。本当に止めるべきは道を踏み外した場合のみであり、魔術もまた、多くの人々の叡智によって研鑽されるべきだ。そうやって、古の時代から魔法もまた受け継がれてきたのだから。
ゆえに、彼は天才を、未知を、恐怖を、英雄譚を解体する。
その魔術に再現性があるのなら、それはもう人の手の届く範疇だ。机上の空論、運命に愛された天才の秘術、奇跡の一発などでは終わらせない。
才能と奇跡の混ざりものを今一度解体し、冒険者たちが生きるこの世界に広く伝え、失われた魔術を再び世に出す。それが、基礎的な魔法を混ぜてより強大な敵と戦ってきた多くの英雄たちへの、最大級の称賛と敬意と信じて。
そしてそれは、リンドウ師、あなたもその一人だとバウムは思う。
自身の懐中時計をちらりと見やる。スピードが命の作戦と言っていたが、彼からすれば何もかもが慎重すぎる。
この程度の魔瘴の濃さなら穢れの谷や暗黒大樹の麓とそう変わらないし、冒険者は息を上げたりはしない。
貴方は恐いと言っていたが、それは本当に弟子を信じていないからではないだろうか。
残念ですけどね、リンドウさん。過保護を信頼とは呼ばないんです。むしろそれと真逆の行為。話を聞く限り、今回の作戦は二人はむしろ当事者。当然、二人が口を出す権利だってある。この作戦自体も、ねる本人が提案したこと。
そもそも、海底離宮への参加だって本当は二人を参加させたくなかったんでしょう?そしてそれを解っていたから、二人は貴方に連絡をしなかったんです。自分たちの冒険だから、自分たちの戦いだから。
まあ、それにリンドウが何も言わないのは、本人も重々それを解っているからなのだろう。結局二人は師匠を頼ったのだからリンドウの判断は正しかったのだとしても、そもそもこの問題に正解なんてない。だから、適当に距離を置く方が二人の為にもいいのだ。
つくづく、魔女という生き物は業が深いな…そうブラオバウムは思った。
だが彼とて、彼女たちの幸せを願っていないわけじゃない。腹を括るといい。こっちは任せてくださいよ、リンドウさん。