「突入部隊の中でも、和解に対して色んな考えが渦巻いてるな。」
たった数日で、冒険者達は和解という考えがある事を受け入れた。全面的に賛成という訳ではないのが大事である。
「それにしても…少数とはいえ魔族との和解を考えるなんて、おたくらの大将は随分豪胆なんだなあ、ギブ先生?」
「だから、先生はやめてってば、ロマンさん。」
苦笑いを浮かべるギブだが、嫌な感じはしない。それもこれも、冒険者という生き物の強さに、改めて充てられたからなのかもしれない。
ギブが思い出すのは、JB一味との戦闘…ゴブル砂漠でソウラとJB達が戦った時の空気だった。あの時も手加減があったとはいえ、互いに真剣勝負で命を懸けて戦った。そして和解をした。
冒険者の中でも極端な人達であり、たった一例しか体験していないが、結局、冒険者とはそういうものなのだと思う。時にあっさりと敵対し、時に無謀なほど簡単に仲直りできてしまう。こういう空気になるのは、世界中探しても冒険者だけだ。
冒険者を志す以上、誰もが腹に一物抱えているのは当然で、話せない事、話したくない事だってある。おそらく純粋に、魔族との和解に賛成する冒険者も突入部隊の中では一握りだろう。
必要なのは、和解を目指す同志ではない。和解に転んでもそれを受け入れられる器量と、柔軟に変えた考えに体がついていける卓越さ。少なくとも、まだ和解を目指せる状況にない中、その橋頭保の確立に向けて動くことが、現状でのベストだとギブは考えたのだ。
「けど、そのソウラとは直接やり取りして和解したいって言ったわけじゃないんだろう?」
「はい。けど、あの手紙の内容からすれば…ソウラは和解をしたいって考えてますよ。今も間違いなく。」
結局、ソウラからの手紙は太陰の一族と戦士団の事情が書かれた内容だけで、それ以降はまだなかった。一応こちらから突入部隊の内容は届くだろうが、今現在ソウラが何を目指しているか、正確なところまでは読み切れない。
だが少なくとも、互いの事情を斟酌した上でソウラが太陰の一族を滅ぼそうと考える事は、万に一つもない。アズリアの自発的な協力を待つ姿勢もあったのだ。憎しみ一辺倒で戦っているわけではないことは十分に読み取れる。
形だけ見れば、魔族との和解に向けて動くソウラが中心になる。だからこそ、ソウラという人物像を理解している、これまで出会った冒険者達を中心に組みたかったのだ。
「信頼してるんだネー。」
「ええ、ソウラ君にちょっと妬いちゃうわ。」
「私らも会ってみたいもんさ。」
誰もが皆、薄々だが感じ始めている。今回の戦の…時代の流れという潮流の渦の中心に立って周囲を巻き込む人物が、彼なのだろうと。
「さて、最終ブリーフィングと行こうか。」
作戦開始前、指揮官達の間で最後の会議が行われる。
「まず今回の戦だが…基本、今回の戦じゃ突入部隊は不利だ。兵站、戦力、地の利。どれを取っても相手方の規模が大きい。それなのにこっちは細い兵站をどうにか繋いで戦線を延ばす。オマケに時間もないと来た。」
「万全の状態で真正面からぶつかれば遅れは取らないでしょうけど、戦力差がどこまで響くかですね。」
「だからこそ、初手の作戦が最重要で最難関ですね。ここでしくじれば作戦自体が崩壊する。」
「総力戦ではなく一騎打ち戦。広域戦ではなく局地戦。持久戦ではなく短期戦。ランチェスター戦略に徹底して則る。まあ要するに、テロリストの戦い方だな。」
「それはそうだ。どっしり構えて敵を追い詰めていこうって相手に、わざわざ堅実に要塞攻略をしていこうとすれば100%負けるぜ。」
この作戦の総指揮を担うのはロスウィードだが、兵士となる冒険者は自分の頭で考えられる能力を持つ。それゆえ、ギブ、ゆキンカク、シュペーアにロマン、二人が議論を誘導せずとも冒険者達が自然と流れを作ってくれた。これも他にはない強みだろう。
「ああ、だから大事なのは、敵の指揮系統が機能する前に、対応できないほどの突飛さと機動力で主導権を握る事。そのための飛び道具は、冒険者達にもある。」
潜水艦での突入から始まり、エグドラシル要塞、及びロマンによる機動化。勇者か盟友の合流、超駆動戦隊ドルセリオン。そしてブラオバウムを中心とするメドローア。
一つ一つがその戦での主役を張れる格を持った面々だ。いくら敵に老練の経験と頭脳があれど、現場指揮官の差ですべてに即座に対応し切るのは不可能に近い。
「…まあぶっちゃけ、どんなに戦力を揃えても想定外の事態は幾らでも起こり得る。不安は残るさ。」
「彼らはそんなに頼りないカードかい?先生。」
「…ハ、決まってんだろ。」
一呼吸置いて、ロスウィードは平然と言ってみせた。
「ロイヤルストレートフラッシュだ。」