「で、職場はどこにあるんだい」
「海の底です」
「えっ?海の底へなんか行けるのかい?」
「はい。私がお連れしますから交通費もかかりませんよ。さあ行きましょう」
カメはうらしまを背中に乗せて、海の中をもぐっていきました。
うらしまが海の景色にウットリしていると、
やがて立派な海底都市へ着きました。
「着きましたよ。このビルが竜宮です、さあ、こちらへ」
カメに案内されるまま進んでいくと、
この竜宮ビルの主任の乙姫様がうらしまを出迎えてくれました。
「ようこそ、うらしまさん。当プロジェクトはあなたを歓迎します。
なお、あなたはプロジェクトを完遂するまでここから出ることは出来ません。
必死に働きましょう」
うらしまは好条件をエサにカメに騙されたのでした。
うらしまは社畜生活を続けるうちに、戻ることを諦めていました。
2年後、プロジェクトが終了を迎えそうな頃、
うらしまは、はっと思い出しました。
(アストルティアはどうなったのだろう?)
そこでうらしまは、乙姫に言いました。
「主任。今日まで私を使ってくださりありがとうございました。
私はそろそろ帰ろうと思います」
「帰られるのですか?よろしければ、
このまま次のプロジェクトに参画されては」
「いいえ、私も実家暮らしが長かったので…帰りを待っている人も居ますし」
すると乙姫さまは、さびしそうに言いました。
「…そうですか。優秀な人材が居なくなるのは寂しいです。
ではおみやげに玉手箱を差し上げましょう」
「玉手箱?」
「はい。あなたが参画した後、
直ぐに体調不良でプロジェクトを去ったカメが用意したものだそうです。
あの裏ぎ…カメが言うには、あなたがアストルティアで過ごすはずだった
「時」が封じ込められているそうです。
これを開けずに持っている限り、うらしまさんは現実世界にいられます。
ですが一度開けてしまうと、再び戻ってくることはできませんから、
決して開けてはなりませんよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
乙姫さまと別れたうらしまは、泳いで地上へ帰りました。
アストルティアにもどったうらしまは、まわりを見回してびっくりです。
「わずか2年で、ずいぶんと様子が変わったな」
フレンドリストは所々欠けており、ログアウト表示がほとんどです。
残っていたフレに話しかけてみました。
「うらしま…?えっと、すみません、
どこでフレになったんでしたっけ。もう忘れちゃってて…」
うらしまは野良主体のプレイヤーだったので、
親しいフレはあまりいませんでした。
親しいフレはすでにリストから外されています。
「そりゃあ2年もすれば引退したと思われるか…置いてきぼりだな」
がっくりと肩を落としたうらしまは、復帰を諦めかけていました。
そんな時、ふと、持っていた玉手箱を見つめました。
「そう言えば、主任は言っていたな。
この玉手箱を開けると、『時』が戻ると。
もしかしてこれを開けると、元のアストルティアに戻るのでは」
そう脳内妄想したうらしまは、
開けてはいけないと言われていた玉手箱を開けてしまいました。
中には数え切れないほど大量のはぐメタコイン、金塊と、
80理論値装備が入っていました。
「あいつ…!まさか…!」
カメはうらしまと入れ替わりに、
アストルティアでも有数の廃プレイヤーになっていました。
玉手箱のアイテムはそのお詫びということなのでしょう。
「馬鹿にして…俺がどんだけ苦労したと…!」
うらしまは怒りで立ち上がりました。
「だったら取り戻してやろうじゃねえか…!てめえに騙された分までな!」
うらしまは再びアストルティアに帰って行きました。
なお、その後の彼のリアルはお察しください。
めでたしめでたし。