※この話はフィクションです。
ようやく仕事休みが貰えた俺は、久方ぶりに王家の迷宮へ向かった。
もうずいぶん訪ねていないが…彼女は元気にしているだろうか。
しかし、迷宮の入口に行くと彼女の姿は見当たらない。
何処に行ったというのだろう。
いつもならここにいるはずなんだが…。
まあ、そうだな、いつまでもここで突っ立っているハズないよな。
俺は何を期待していたんだか。
せっかくここまで来たんだ、1階でもぶらついてみるか。
1階に降りると、何か丸い物体が高速で迷宮を走り回っていた。
なんだアイツ?あんなモンスターいただろうか?
見れば箱を回収していっている。
ちょっとまてそれ俺の箱だぞっ!!!
俺は奴を追いかけた。
どうにか先回りして箱の前に立ちふさがった。
コイツどこかで…?
「どいてよ、今4倍速なの」
丸い物体が話しかけてきた。
この声、そしてこの恰好はまさか…。
『お前、まさかアンルシアか!?』
「知らないわ、人違いよ」
『どうしたんだよその体!前はもっと細くて背も高かっただろ!?』
「知らないっていってるでしょ!!!」
『ああ、もうこいつは…!ちょっと来い!』
どうにか箱を集めて迷宮の外に引っ張り出す。
すると彼女はモノほしそうにこちらの箱を見てきた。
「その箱いくつか頂けないかしら。私の持っている分だとちょっとノルマが…」
『えーと…どれ?』
「ごめんなさい、できれば竜箱がいいわ」
『いいよ、もう全部持って行ってくれ』
「ありがとう」
彼女は申し訳なさそうにお礼を言った。
『で、どうしたんだその体』
「あなたが来なくなって随分経つわ。
私もそれなりに修行はしていたけれど、ちょっと色々あって…。
運動不足になってしまったの」
『いや運動不足って無理があんだろ』
「運動不足なの!」
どうみても太っているとかそんなんじゃなく、
圧縮されているように見えるんだが…。
シュリンクブレス受けて踏みつけ食らったようにも見える。
『じゃ、その足の速さは?』
「修行で足が速くなったのよ」
『お前さっき運動不足とか言ってなかったか』
「そうよ」
『矛盾してないか』
「…」
『本当のことを、話してくれないか』
「ここも随分人が来なくなってしまったわ。
以前は魔王だ討伐だ、ベルトだって賑わっていたのにね。
それで放置されっぱなしになって…運営神っていうのがやってきたわ。
アルバイトをしないかって。
このままじゃここはダメになってしまうって…」
『で、それか』
「ツール、っていうもののアルバイトを始めたの。
今まで通り探索はするんだけど一人で。
一切経験にならないんだけど、利用客が増えるんだって。
でもそうしたら、皆ツールの方に行って本当に戻ってこなくなっちゃったわ」
『そんなにツールっていうのは便利なのか…』
「ゲンダイジンっていう人種は時間がないんだって。
成長の伸びしろがない私の世話なんてもう飽きちゃって…
時間もかかるから他のことしたいみたい。
ツールなら私に箱だけ回収してもらえるから。
人って楽な方に流れちゃうものなのね」
『お前、それでいいのか?』
「もう契約すんじゃったの。止められないわ。
運命ってものがもう一度変わるのなら…って思うけれどね。
今はこれを続けるしかないわ。
あ、ごめんなさい、また呼ばれたの。もう行くね」
彼女は慌ただしく迷宮へと向かって行った。
俺はそれを見ているしかなかった。
何がツールだ。
そんなもので彼女との探索をやめるというのか。
そんなことが本当に正しいのか。
俺には分からない。彼女の境遇を思うと…。
俺はネットで彼女がどんな目にあっているか調べてみた。
そして天箱が出まくるという記事をみて、
とりあえずツールを使うことにした。
現実とはとても過酷なものだということを思い知った。
完