ここはジュンパイ・クランのチームアジト。
チムメンの一人エルダー・ケンジャは窮地に立たされていた。
「エルダー・ケンジャ=サン」
白色音声に変換されたクラン・リーダーボイスがアジトに響き渡る。
「は…」
「クソモンス・スゴイタクサンビルの30万点ノルマ達成…今週もうまくいっていないようだが」
「お言葉ですが、私は紋章などなくとも」
「紋章はジュンパイにとって絶対。イキるためには必要な空気だ」
「しかし」
「シュッカ、するか?」
「そ、それだけは!」
シュッカとは、クラン・カイゴ・メンバによる強制戦闘執行のことである。主にエンゼルの取れないニュービーに対して行われる補助措置であるが、世間ではフルメタル・マンジュウ・パワーレベリングと同等のドーピング行為であり、ジュンパイを名誉とするガチ・ゼイのエルダー・ケンジャにとっては屈辱…上位者からエンジョイどもへの転落を意味するのである。
「では直ぐに攻略してくるがいい。3ランチ分(90分)は待とうではないか」
「アイエ!?さ、3ランチでは仲間を集めて災壇を2回、いや1回回りきるのが限度では」
「貴様の貧相なスコアでは1から回らんと追い付かんのか?」
「はぐれの引きを考えるとせめて5ランチは」
「シュッカの準備だ」
「ヨ、ヨロコンデー!」
プレッシャーに耐えられず飛び出したものの、エルダー・ケンジャの勝算は低い。これまでプレイヤースキルを武器に戦ってきたエルダー・ケンジャであったが、プレイヤースキルに頼りすぎたせいで装備はボウエ軍やゼルメア放出品センタで手に入れた型落ち品ばかり。最新鋭のジツ・ガードやニマイジタ詠唱システムは当然施されていない。
そんな状態でもなんとかダーマショクアンセンタからの紹介でヒヤトイ・パーティに潜り込むのだが、当然メンセツで引っかかる。
「ヨロシクオネガシマス」
「ヨロシクオネガシマス」
「エルダー・ケンジャ=サン…そのソウビはフダンギですか?」
「アッ、タイセイなら少々」
「ソウビ・チェッカがビービー鳴ってウルサイのです。着替えてもらえませんか?」
【ジツ・ガード 25%ミマンデス】
「アイエッ、ジツ・ガードはありませんです」
「それはユカペロリ案件では?」
「アイエ、マホステするのでペロリはないです」
「そんなヒマが有るのですか?」
「スキルにはジシンがあります」
「エルダー・ケンジャ=サン…フンショクはいけません。ソウビはスキルを物語るのですよ」
「私は例外です!ダイジョウブデス!」
「次のパーティの当選をオイノリいたします」
「アッハイ」
先週も似たような状態であり、アシキリ行為を受けている。これまではなんとか誤魔化して生きてきたが、装備不審者にガチパの風は冷たいのであった。エンジョイ・パーティが15万をノルマにしてウェイウェイ楽しそうにしているのを横目に、エルダー・ケンジャはミドリダマを出し続けるが、一向に採用されない。気がつけばもう1.5ランチを過ぎる時間となっていた。
「アイヤ…このままではシュッカじゃ…」
その時である。エルダー・ケンジャは物凄い力で肩を掴まれた。振り向くとそこには見るからに怪しい風体の人間男が立っている。
「ケンジャか?」
「アッ、アッハイ」
「30万↑いいか?」
「エッ」
エルダー・ケンジャは改めて男を見る。あからさまなセイレイオウ一式に身を包んだどう見てもジライ案件の男である。
(今更セイレイオウか?マイコーデにしてもそのチョイスは失敗しすぎている…)
人のソウビのことはとやかく言えないエルダー・ケンジャだが、さすがにこれはドン引きである。しかも話し振りからして相当なコミュ症に違いない。しかし悩んでいる時間はエルダー・ケンジャにはもうなかった。
「アイエ、ヨロシクオネガシマス」
「ヨロシクオネガシマス」
「そ、そのイデタチは魔法系デスカ?」
「バドだ」
「ハンバトですか?」
「当然そうなる」
バドはインチキ・バトルマスターを表すスラングで自虐の意味で使われる名称だが、ここに至ってはエルダー・ケンジャを不安にさせる物言いでしかない。わざわざまっさらなセイレイオウコーデをするなどと言うのはジライを宣伝しているようなものである。
「そ、それで、あと二人はどうするので?」
「時間がない。ショクアンでレンタルする」
バカな!ショクアンから人を雇って30万↑などとは!時間がないのは自分も同じだが、言うことは6種類しか聞かないショクアンのワーカーどもではクソモンス・スゴイタクサンビルは荷が重過ぎる!エルダー・ケンジャは目の前が真っ暗になりそうだった。
続く