「……やるじゃねえか。弟弟子よ。
お前の芸、確かに見せてもらったぜ。」
悪魔道化師ゲイザーの体が光に包まれ……
現れたのは、僕と同じぐらいの、若い男だった。
ゲイザーが、まだ悪魔道化師になる前の姿。
ゲイザーは僕の兄弟子に当たる。
なのにこの姿は……つまり、悪魔道化師になった時のまま、
時間が止まっていたということなのだろう……。
ゲイザーもまた、“かたりべの服”を身にまとっていた。
他の旅芸人たちがそうだったように。
かつて僕が、通り過ぎたように。
「いいボケだった……。
ひさしぶりに、人間のころの笑いを思いだした。
ははっ……なかなか、面白かったよ。」
それは、何かに納得した……心の底からの笑顔。
――ポルファン師匠。
あなたのもとで修行をしていた頃のゲイザーを、
取り戻すことが、できました……。
「あ~あ。せっかく キミの中にあった
芸を憎む心を 利用してあげたのに。
ずいぶん カンタンに負けちゃったね。」
現れたのは、3匹のグレムリン。
チギー。ラギー。ムギー。
「ゲイザー……」
今なら分かる。
ゲイザーは、きっと。
“旅芸人に負けることを、望んでいた”のだ……。
だって、“道化師”っていうのは……
“芸人”のことじゃないか。
「ルルルリーチ様は、人間のわりに
邪悪なオーラを持っていたキミを気に入って
魔物にしてあげたのになぁ。」
だめだ……
「もう用済みだねぇ。
だいぶ旅芸人を殺してくれたみたいだし
そろそろ、死んじゃっていいよ。」
やめてくれ……
「そ~れ! 燃えちゃえ~♪
3連続・メラゾ~マ~♪」
“あの時代”の旅芸人に……
「必殺♪ 燃え燃えイリュージョン~♪」
メラゾーマ3発は、耐えられないっ…………!
「ゲイザーーーーッ!!」
「うおおおおおおおおおおーーーッ!!」
一瞬だった。
激しい炎に包まれ、ゲイザーが倒れる。
悪魔達が、笑いながら去って行く。
「うう……ホーリン。
み、みせてくれ。
さい……ごに、お前……の芸を……。」
「分かった! 何度でも見せてやる!
だから……だから死ぬなっ、ゲイザー!!」
「はは……は。やはり、面白いな……。
はは……。そう……いえば
母の……死に顔は おだやか……だった。」
師匠……。オレが まち…がってたよ。
あなたは 確かに 芸で…人を…
救って……いた…………。
ゲイザーの体から、命の光が抜け落ちていく。
今度こそ、本当に、ゲイザーは消えた。
だが、魔物として死んだのではなかった。
最期は、人として。
いや……
“旅芸人として”、その生涯を終えたのだ。
旅芸人ゲイザー。
僕の兄弟子。
さようなら。
ありがとう。
(僕はあなたに、大切なことを教えてもらったんだ……)
一つの戦いが終わった。
ポルファン師匠の元に、帰ろう。
彼の最後の言葉を伝えるために……。
(2017 闇芸人・決戦編へ続く)
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