「戦いのビートが、死ぬ……?」
「その通りですよ。
扇の最高特技である「風斬りの舞」をご存知ですかね?」
――風斬りの舞。
自分を中心とした範囲にバイキルトと魔力覚醒の効果を同時に与える。
しかし戦闘開始と同時に使うことはできず、
戦いのビートの更新、あるいは前衛の蘇生後、立て直しに使うことがほとんどだろう。
「……当然だ。僕だって身につけている」
「では風斬りの舞Ⅲの、現在のチャージタイムは?」
「140秒だろ?」
「ええ、そうです。再使用まで140秒。
ですが重要なのはそこではない。戦闘を開始してから
使えるようになるまでのチャージタイムですよ」
「それは、60秒……、……あれ?」
「フォッフォッフォ……。気がついたようですね。
あなたも知ってるはずですよ。
そう、“間もなく”開幕チャージタイムをゼロにする手法が
扇使いたちに公開される。
戦闘開始と同時に風斬りの舞が使用できるようになるのです」
勝利を確信したかのように笑う闇芸人。
そうだ――確かに、僕は聞いていた。
風斬りの舞を戦闘開始から使用できるようにする方法があると。
おそらく、ナドラガンドの嵐の領界が開放される頃には――
「お分かりですね? 攻撃力2段階アップだけでなく、攻撃魔力まで上昇する……。
上位互換! 戦いのビートはそれ以下!
過去に……職業固有の150ポイントスキルが、武器スキルに劣るなんて馬鹿げたことが、このアストルティアに存在したことはナッシング!」
真・やいばくだき、女神の祝福、メラガイアー、ためる参、サプライズラッシュ、
ミラクルブースト、聖騎士の堅陣、マダンテ、フェンリルアタック、ドルマドン、
ミリオンスマイル、ウォークライ、プラズマリムーバー、回復のララバイ、
戦鬼の乱れ舞、魔王のいざない……
貢献度合いは違えども、いずれも“替えがきかない”特技だ……!
「それでも。
これまでは試練の門やピラミッドといった場ではまだ活躍ができました。ですがこれからはそれらの席も徐々に奪われていく。
いいえ、本当はもう、分かっているのでしょう?」
戦闘のさなかだというのに、ルルルリーチは僕の耳に顔を近づけ、
ささやいた。
「もはやピラミッドや試練の門さえ、占い師の募集の方が多いということを」
「うぐっ……!!」
戦闘開始と同時に範囲バイキルト。
それはもうとっくに、旅芸人の専売特許じゃない。
占い師だけではない。
これからは扇を使える扇を使える武闘家、スーパースター、踊り子でも可能になる……!
闇芸人に壁際に押し込まれる……!
レベルは僕の方が高いはずなのに……
ルルルリーチに立ち向かうことが、できないっ……!
――どうです?
弱体は他の職が“ついで”程度でこなしてしまう。
強い攻撃呪文は与えられない。
回復・蘇生は道具でじゅうぶん。
虎の子のたたかいのビートでさえ、もはや、より上位の特技が存在する。
「だったら……だったら、旅芸人の存在意義って何なんだ……?」
旅芸人とは……救われない存在でしょう?
旅芸人が何をしても、いつだって代わりはいる……。
それも、旅芸人よりももっと上手くやれる。
何でもできる? 昔より強くなった?
それが何だと? それで強敵との戦いに参加できますか?
誰かに頼ってもらえますか?
「もう反論はありませんね? これで証明終了です」
「………。」
「で、結論。何が言いたいのかというとですね。
旅芸人は、この世から消えてください。
消えないのなら……私が殺してさしあげます」
旅芸人って……何なんだ。
近づいてくる闇芸人ルルルリーチを前に、
僕はこいつの言葉に、何ひとつ抗えなかった……。
(第5章へ続く)
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