『あなたは自分の才能が認められなくても
くさらずに“旅芸人の道”を極められますか?』
はい
いいえ
『――闇芸人の魂は、ここで生まれるのです……』
「闇芸人の魂? お前はいったい……」
『私はただの闇芸人。
ルルルリーチとも呼ばれてますがね』
「お前が僕をここに連れてきたのか! 何のために!?」
『フォッフォッフォ……。
……私はまもなく、死ぬ。
あなたの攻撃はやはり強かった。
一人でも私を圧倒できるほどです……。
私の時代からすれば反則もいいところだ』
「アストルティアは進化してきたんだ。
そして僕たち冒険者も……」
『ええ、そうなのでしょう。
そうなのでしょうとも。
……ですがね。変わらないものもあるのですよ』
「……?」
『……“絶望”ですよ。旅芸人に対する』
それはいつの時代も存在した。
神話の時代にすら、それはあった。
他の職の踏み台としてしか、存在を許されなかった。
アストルティア開闢の前からね……。
「時の王者の時代……か」
僕たちがこの世界に生まれるよりも遙かに昔。
旅芸人は、転職が許されるまでの駆け出し冒険者のための職業だった。
『回復呪文と攻撃呪文を使え、武器やスキルでの攻撃もできる……
初心な冒険者にとってこれほど心強いものはない。
しかし成長するにつれ、その恩恵は薄れていく。
より高度な、専門的な職業を組み合わせた方が強くなる』
「それは……」
『ですが……そうして捨てられた旅芸人の魂は
いったいどこへ行けばいいのです?
旅芸人を愛し、けれど……その弱さ故に捨てざるを得ない、
そんな魂たちは……』
「………」
『そう、その魂たちが集まる場所が“ここ”です。
ずっとずっと昔から、そしてアストルティアが生まれてからも
集まり続けた魂たちは、
いつしか旅芸人の無力を憎むようになった。
弱いのに、役に立たないのに、旅芸人を続ける
愚かな冒険者たちを罰したいと願うようになった』
「旅芸人を……?
どうしてだ? その憎悪は、他の職業に向けられるものなんじゃないのか?」
『誰もが、分かっているのですよ……。
強くなった他の職が悪いのではない。
ただ、ついて行けなかった旅芸人がいるだけだと……。
でもね』
声はわずかに、悲しげに響く。
『それでも、旅芸人を愛する心を捨てきれないからこそ……憎い。
旅芸人を続ける者たちが。
旅芸人に希望を持ち続ける者たちが』
「…………」
『もうお分かりですね?
闇芸人とは私、ルルルリーチ個人を指すのではない』
『旅芸人に絶望し、存在を憎むようになった多くの魂が
寄り集まってひとつの“悪”となった』
『それこそが“闇芸人”――』
『ゆえに闇芸人は不滅!
たとえ私が倒れても、また新たな闇芸人が生まれる!』
『そう……それこそが。
すべての旅芸人が、絶望の末にたどり着く“極み”なのです』
「闇芸人が、極み……」
――だめだ。
こいつには、勝てない。
勝てるはずがないんだ……。
こいつは、すべての旅芸人たちの嘆きだから。
たった一人の旅芸人に、抗えるはずなんてない……。
『さあ、ここにたどり着いたあなたに!
今こそ問いましょう!』
『――あなたは自分の才能が認められなくても
くさらずに“旅芸人の道”を極められますか?』
はい
いいえ
『――たとえばパーティ募集で、旅芸人の要望がどこにもなくても?』
はい
いいえ
『――仲間募集の合図を出しながら何時間待っても声をかけられなくても?』
はい
いいえ
『高いお金をかけて、耐性を揃えた最新の装備に出番がなくても?』
はい
いいえ
『戦士や僧侶ができないがために、仲間たちと疎遠になってしまったとしても?』
はい
いいえ
『その居場所を、どうぐ使いや占い師に奪われてしまっても?』
はい
いいえ
『…………。 ――本当に?』
はい
いいえ
はい
いいえ
はい
いいえ
はい
→いいえ
『フォッフォッフォ……そうでしょうね。
そのように 強い心を持った旅芸人など、
この世に……いるわけがない……』
――もし、いたのなら。
私だって。
『さあ、新たなる闇芸人の誕生に祝福を……!』
僕は――
「私は―――」
「私は闇芸人。全ての旅芸人を憎み、滅ぼす者……!」
(第7章へ続く)
http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/558268798784/view/4666517/