「プーックスクス。
許さない? 断罪するのは私ですよ。
フォッフォッフォ……」 (50)
「その三つ、今からお前に教えてやる。
それが終わったら、お前の断罪を受けてやろうじゃないか」
「ほう……、いいでしょう。ならば存分に囀りなさい。
辞世の句としてね」 (50)
「まず一つ目。お前は、オレたちと同じように笑って、泣いて、頑張ってる旅芸人たちをバカにした」
悪魔道化師の時に使っていた三叉の剣。
ゲイザーはそれを逆手に持っていた。
「ほう、それで?」
「二つ目。オレに打ち勝ち、旅芸人の価値を認めさせたお前自身をバカにした」
逆手に。……逆手?
あの持ち方は――
「フン、旅芸人ホーリンは絶望し、死んだのです。
そのような者に何の価値が?」 (50)
「そして三つ目。オレを――
オレたち旅芸人を教え、導いてくれた、ポルファン師匠をバカにした!」
――まずい。
ふいに、そんな言葉が脳裏をよぎる。
なぜだ。なぜか分からないが……
私は今、何か大変なことを忘れている気がする……!
すぐに、今すぐに、ヤツを倒さなければ――
「さあ話は聞きましたよ! これであなたは終わりです!
氷結らんげ――」
「いや。終わったのは、お前だ」
ぐらり。
足元がぐらついた。
「が……はぁっ……!」 (50)
私の。
私のHPが、いつの間にか……半分以下に減っている!?
「な、何をしたのだ、ゲイザーーッ!」
「ははっ、大したことは何もしていないさ。
オレが使ったのは――」
三叉の“剣”を弄びながら、ゲイザーが言った。
「ただの、ヴァイパーファングだ」
「な、にぃ……!?」
逆手にもったそれは……、短剣ッ……!
悪魔道化師の頃に片手剣スキルを使っていたせいで、
思い至らなかった……!
旅芸人が、片手剣を使うはずがない!!
こうして会話していたのも、
毒が私を蝕むまでの、時間稼ぎッ……! (50)
「だが、あの頃のヴァイパーファングは……」
「そう、オレの時代、猛毒のダメージはたったの10だった。
だが今はどうだ?
猛毒は5秒ごとに50のダメージを与えるよう改良された」
「な、なぜです……?
あなたは旧世代の旅芸人なのに……」
「簡単なことさ。お前は“現代の”旅芸人だ。
ならお前の体内に入り込んだ猛毒も、同じ基準になるだろう?」
「くっ! このままでは……がはあっ!!」 (50)
私の最大HPは580程度。
すでに猛毒の累積ダメージは400。
私の命が尽きるまで、もう20秒しかない。
「くそっ、毒を解除する方法はないか!?」
「残念だったな。旅芸人に“キアリーは使えない”!」
「だが猛毒の効果時間は60秒!
私のHPを削り切るには充分だが、回復すればいい!!
ベホイミでしのぎ切れるっ!!」
「そうはさせん!
うおおおおおっ!
これが、オレの……全力だーーーっ!!」
天井から。
タライがひとつ。
ゲイザーに吸い込まれて。
会心のボケ!!
「だーっはっはっは! く、くそっ……ボケだと……!
笑っている暇など……」 (50)
残り15秒。
笑いによる休み状態から回復、ベホイミを唱えることは、ギリギリ可能。
私にトドメを刺せる技を、ゲイザーは持っていないはず。 (50)
「そうだ。お前がオレに思い出させてくれた。
旅芸人にも戦い方がある。
だからな、闇芸人ホーリン……」
休みが終わる。動ける。 (50)
「うおおおおっ! ベホイ――」
間に合っ……
ゲイザーは私の懐に音もなく忍びより。
「――沈め。タナトス、ハント……!!」
「……がっ………はァァ……ッ!!」
タナトスハント。
今でこそ攻撃力4倍強のダメージだが、当時は……
「強化前でも2.5倍……!」
「テンションも乗っていたぜ。
どうだ? そうバカにしたものじゃないだろう?」
あの頃、短剣と言えばキラーピアスでMPを吸収する、程度にしか思われていなかったのに。
「それでもタナトスハントは強かったぜ?
今のお前を、削り切れる程度にはな」
「バカな……。私が、僕が、格下の旅芸人に……」
意識が遠のいていく。
ああ、闇芸人は、ここで……終わる…………。
「予告通りだ。1分で終わったな」
闇芸人ホーリン、討伐。
討伐タイム 1分07秒75
「あれ? あ、最初のターン忘れてた……」
(第12章に続く)
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