「……たくさんの旅芸人がよお。
笑いの極みにたどりつく前に、信念を見失うんだあ」
あれは、いつのことだったろう。
あの頃、僕はまだ駆け出しの旅芸人で。
レベル上げの間ずっと着続けた“かたりべの服”はボロボロで。
レベル50になって、買ったばかりの“にちりんの棍”は、
もちろんちゃんとした錬金なんて付いていなくて。
けれど、必死に戦った。
戦って、勝った。
そんな僕に、師匠は言ったのだ。
「修行もキツイし、笑いをとろうとしても
それが世の中にウケないこともあるしなあ。
だがよお、それぐらいのハードルは、上等上等」
「そんなこと、ぜーんぶ、問題にもしないで
ひたすら笑いに情熱をかけられるような奴。
天下をとるのは、そんなバカだと思うよお」
その言葉を、僕はいつ、聞いたのだろう?
でも、今思えば。
“あの時に必要な言葉だったのか?”
なぜなら。
旅芸人が本当の壁にぶつかるのは、レベル50などではない。
レベル上限の最前線。強敵との戦い。
そこで旅芸人は、同じレベルの他の職業と比べられる。
「ホーリン。オイラに、いつか見せてなあ。
笑いの極みにたどり着いたバカの芸をよお。
それができたら、伝説の旅芸人と呼ばれるぜえ」
“本当は、今、このときのために送られた言葉だったのかもしれない”
――そうだ。
この言葉は。
僕が“かつてルルルリーチを倒した後に”聞いた言葉だ。
「これは……、一度、通り抜けたクエストだった」
だから僕は、アクロバットスターを身につけていた。
だから僕は、旅芸人の証を持っている。
だから僕は、師匠の……、
「師匠の最後の教えを、思い出せる!!」
僕は負の想念のすべてを振り払った。
魔障には、過去を再現する性質がある。
かつて倒した敵を、その場に再び出現させることがある。
そして五大陸やレンダーシアを見ても分かるように、
アストルティアは時空的に不安定だ。
だから時おり、一度終わったはずの事件がもう一度発生することがある。
冒険者たちはそれを“クエストのリプレイ”と呼ぶ。
僕は、それに巻き込まれていた。
もう何年も前……駆け出しの旅芸人だった頃に通り過ぎた場所。
“伝説の旅芸人への道”――。
「“闇芸人の根源”!
お前は過去を再現して、新たな闇芸人を生み出そうとしていた!
でも……僕はもう、お前なんかに負けない!」
『フォッフォッフォ……ついに、気づいてしまいましたか。
ですがそれだけでは、私を倒すには至りませんよ?
私を討ち滅ぼすに足る、希望を――
あなたは見つけられましたかね?』
「ああ。見つけたさ。今からそれを、証明してやる」
大きく息を吸った。
「僕は――」
「旅芸人を―――」
「――愛してる!!」
そしてついに、この色あせた絶望の世界に、色彩が戻る。
闇芸人の仮面が剥がれ落ちた。
僕はもう、絶望に囚われたりはしない。
「取り戻したぞ、“闇芸人の根源”!!
見せてやる……旅芸人の輝きを!
お前と、そして絶望するすべての旅芸人に……!」
旅芸人と闇芸人、ついに決着の時――。
(第16章へ続く)