**『大戦鬼の残響 ― チョッピ荒野、砂塵と銀の記憶 ―』**
夜のしじまに包まれた真暗な空の下、チョッピ荒野の乾いた風が吹き抜ける。
鼻を突く砂埃と獣の匂いが、みるくの脳裏に鮮烈な記憶を呼び覚ましていた。
「おい、はぐれるなよ! 次、来るぞ!」
目の前には、禍々しい角を突き立てたバザックスの群れ。
みるくは、手に馴染んだ大剣の柄をぎりりと握りしめた。手のひらに伝わる、使い古した革の確かな感触。それは、誰かに用意された既製品ではない。あの日、職人ギルドの熱気に身を投じ、火花の散る炉の前で、文字通り汗と脂にまみれて打ち出した自作の業物、「大戦鬼」の鎧の一部だ。
「……ふう。鉄の匂いが、まだ生きてるな」
鎧の隙間から漏れる自分の吐息が、冷たい夜気に触れて白く滲む。
バザーで買えば済む話かもしれない。効率を考えれば、それが「正解」なのだろう。だが、みるくの心の奥底には、それでは決して拭えない渇きがあった。
「金で時間を買うのが経営の基本だ。だがな、この『重み』だけは、自分の手で叩かなきゃ手に入らないんだよ!」
咆哮と共に、バザックスが地響きを立てて突進してくる。
空気を切り裂く風圧。皮膚にピリリと走る緊張感。みるくは腹の底から声を張り上げた。
「天下無双――ッ!」
幾重にも重なる斬撃の音。硬い鱗を断ち切る際の手応えが、手首を通じて骨の髄まで響く。
一体、また一体と崩れ落ちる巨体。経験値という名の光が自分に吸い込まれていくたび、胸の鼓動は激しさを増し、血管を流れる血が沸騰するような熱さを感じた。
「はぁ、はぁ……。どうだ、見たか。これが、現場の力だ」
戦闘が終わった後の、耳が痛くなるほどの静寂。
ふと横を見れば、共に戦った仲間が、勝利のポーズで不敵に笑っている。
その光景は、画面上の数字の羅列なんかじゃない。心臓の音、叫び声、そして共に戦い抜いたという確かな連帯感。
「みるくさん、またレベル上がりました?」
「ああ、上がった。だがな、上がったのはレベルだけじゃない。……私の魂の温度だよ」
みるくは、返り血を拭うこともせず、自慢の鎧の胸当てをポンと叩いた。
金属の硬質な音が、荒野の夜に響き渡る。
何十億という資産を動かす指先が、今は一振りの剣に魂を宿らせている。
贅沢な食事よりも、洗練されたオフィスよりも、この砂まみれの戦場こそが、自分を「生」へと繋ぎ止めていた。
「さあ、次だ。夜明けまでは、まだたっぷり時間があるからな」
みるくは再び剣を構える。
その瞳には、未来を拓くリーダーの鋭さと、純粋に冒険を愛したあの頃の熱が、分かちがたく混ざり合っていた。