防衛軍は、私の職業訓練校
朝から東京は熱中症警戒アラートが鳴りっぱなしで、窓を開けても熱風しか入ってこなかった。みるくは白い半袖Tシャツに紺色の短パン姿で、首へ冷たいタオルを巻き、朝ご飯に焼き鮭と冷奴、それから昨日の残りの味噌汁を温め直して食べた。流し台には麦茶を作ったばかりの大きなポットが置かれ、洗濯機はガタガタと音を立てて回っている。部屋の冷房がようやく効き始めたころ、みるくはパソコンの前へ座り、防衛軍の受付を開いた。
「今日こそ、この職を覚えるぞ。」
全部の職業を百四十まで育てたことだけは少し誇らしかったが、問題はそこからだった。海賊になれば大砲の置き方を忘れ、魔法戦士になればフォースをいつ配るのか迷い、レンジャーになれば「あれ、まもりのきりって最初だっけ」と首をひねる。装備画面とスキル欄を何度も開いては閉じ、仲間が迷いなく走っていく後ろ姿を見送りながら、自分だけ一歩遅れている気がした。
「この職、何するんだっけ。」
思わず口から出た言葉に、自分で吹き出してしまった。経験値の通帳を開けたら浦島太郎の玉手箱みたいに一気に百四十になったのはいいものの、中身まで一緒に育ったわけではない。レベルだけ立派な新人社員のようなものだと思うと、妙に納得できた。以前、盗み金策で「レアがダメならノーマルで」と言いながら走り回った日のことまで思い出し、何でも近道だけでは覚えられないのだと苦笑いした。
仲間には申し訳ないと思いながらも、防衛軍は今のみるくにとって職業訓練校になっていた。誰かが鐘を鳴らせばその後を追い、大砲を置く人を見れば真似をして、強そうな人の動きを横目で盗む。敵に囲まれて慌てて違う技を押してしまうこともあれば、「今のは違ったな」と画面の前で頭をかくこともある。それでも戦いが終わるたびに、「次は最初にこれを使おう」と一つだけ覚えてメモ帳へ書き込み、机の端に置いたボールペンで小さく丸を付けた。
「皆さん、ご迷惑をおかけします。でも、もう少しだけ修業させてください。」
そうつぶやきながら、新しく冷やした麦茶をコップへ注ぐと、氷がカランと気持ちよく鳴った。防衛軍は討伐する場所でもあり、みるくにとっては失敗しながら覚えていく教室でもある。総帥Yへの道はまだまだ遠い。それでも今日より明日、一つでも多くの職業を動かせるようになれば、その遠回りもきっと無駄ではないと思いながら、みるくはもう一度「防衛開始」のボタンを押した。