大総帥に俺はなる!!
東京は朝から三十六度で、窓の外ではセミが防衛軍より騒がしく鳴いていた。みるくは白い半袖シャツに紺色のステテコという、総帥らしさの欠片もない服装でパソコンの前に座り、冷房の設定温度を十八度まで下げた。それでも顎から汗が落ちるので、首には水色のタオルを巻き、昨夜の残りの焼き鮭と卵焼きを載せた皿を机の端へ押しやった。キーボードの横には飲みかけの麦茶、丸めたティッシュ、三日前から置きっぱなしのスーパーのレシートがあり、その生活感あふれる司令室で、階級昇格を知らせる文字が金色に輝いた。
「総帥Z……ついに、ここまで来た!」
みるくは椅子から立ち上がろうとして、イヤホンのコードを膝に引っかけ、半分だけ腰を浮かせた姿勢で止まった。見習いから始まり、新兵、強兵、精兵、騎兵、将軍、元帥を越え、必要実績数百八十五個の総帥Zへたどり着いたのである。防衛戦時の全ダメージ増加、移動速度上昇、被ダメージ減少という特権を一つずつ積み重ねた結果、今のみるくは、昔のみるくより少し強く、少し速く、少し打たれ強い。もっとも現実のみるくは、冷蔵庫まで麦茶を取りに行くだけで息を切らし、戻ってから眼鏡を冷蔵庫に置いてきたことに気づく程度の移動能力だった。
昼になると、みるくは具だくさんの味噌汁にご飯を入れ、鰹節とごま油を垂らした猫まんまをすすりながら、次の階級表を開いた。大総帥に必要な実績は二百個なので、あと十五個である。総帥Zまで百八十五個も集めたのだから、十五個くらい簡単に見えたが、防衛軍では最後の十五個ほど条件の面倒な実績が残るものだった。洗濯機の終了音が鳴っても聞こえないふりをし、味噌汁の中の大根をかみながら、みるくは未達成の項目を一本の指で数え始めた。
「あと十五個か。たった十五個だ。洗濯物を干すより簡単だな」
もちろん洗濯物は勝手には干されず、夕方になっても洗濯槽の中で仲良く固まっていた。みるくは防衛軍へ出撃するたび、鐘が鳴れば走り、敵が現れれば技を放ち、仲間が倒れれば「ごめんなさい」と言いながら自分まで倒れた。それでも一戦ごとに作戦を覚え、昨日は見失った敵を今日は見つけ、以前は逃げ遅れた攻撃から今度はぎりぎりで逃げた。大総帥になれば全てのダメージがさらに一パーセント増えるが、みるくにとって本当に大きかったのは、苦手な戦場から逃げずに百八十五個を積み上げた事実だった。
夜、机の焼き鮭はすっかり冷え、卵焼きの端は少し乾いていた。みるくはそれを一口ずつ食べ、首のタオルで汗を拭くと、総帥Zの文字をもう一度眺めた。大総帥の先には将星、大将星、軍王、大軍王、武神、そして五百個を必要とする大武神まで待っているが、今は十五個先だけを見ればよい。みるくはステテコの膝を勢いよくたたき、まだ干していない洗濯物のことを完全に忘れて、次の戦場へ参加を申し込んだ。
「大総帥に俺はなる!! ただし、洗濯物は明日干す!!」

って意気込んでたら、トイレのカギが壊れて中に入れない。
夜中だよ。今。しょぼーん。