正義は六回目に勝つのでしゅ♡
みるくは黒と紫の短いドレスに着替え、同じ色の帽子と膝上まである黒い靴下を合わせて、魔塔三十階の扉の前に立った。現実のみるくは水色のTシャツに灰色のステテコをはき、冷房を十八度にした部屋でコントローラーを握っている。散らかった机には冷めた麦茶、胃薬、醤油の染みがついた攻略帳面が並び、帳面の「レベル50」は二本線で消され、その上に「52」と大きく書き直されていた。五回も床へ転がされた幼女は、二つ上げたレベルと、少し減った胃の耐久力を持って六回目の扉を開いた。
「魔天鳳レアルフス、幼女を五回もいじめた罪を償うのでしゅ!」
戦闘が始まると、魔天鳳レアルフスたちは今回も四体で襲ってきた。みるくは心頭滅却を探し、キングスライムのツボを使い、特技欄と敵の動きを交互に見た。キングスライムは相変わらず戦闘の途中で透明になり、残業代を三倍払うという申し出にも応じなかった。それでも、みるくは消えた背中へ文句を言う時間を惜しみ、敵の技名が見えたら特技選びを中断して動いた。
「キングスライムさん、退職届はボスを倒してから受理しましゅ!」
はげしいおたけびが来るたび、黒いドレスの幼女は床へ転がされそうになった。以前なら立ち上がった直後に回復を探しているうちに、四体から次の攻撃を受けていたが、六回目のみるくは全部を一度にやろうとしなかった。ブレス耐性七十、混乱ガード百、HP四百八十三という準備は、五回の敗北でも失われていない。ジバルンバとギガボンバーで敵を巻き込み、弱った一体へ攻撃を集めると、とうとう敵の数が減った。
「ひとり減ったのでしゅ! 四対一の卑怯な会議は解散でしゅ!」
敵が一体減ると、画面を見る余裕が少し生まれた。みるくは汗ばんだ手をTシャツの裾で拭き、冷めた麦茶を飲みたい気持ちを我慢して、コントローラーを握り直した。台所では洗い忘れた小鍋に大根とわかめのおじやが少し残り、洗濯機の上では片方だけの靴下が朝まで放置されることを覚悟している。今は家事より、五回分の床ペロ代を魔天鳳へ請求するほうが先だった。
「利息と胃薬代もつけて返してもらいましゅ!」
最後の魔天鳳が倒れた瞬間、みるくは画面を見たまま動けなくなった。勝利を知らせる表示が出ても、また敵が立ち上がるのではないかと疑い、コントローラーを両手で持ったまま数秒待った。しかし敵は消え、三十階の冷たい石床には、黒と紫のドレスを着た幼女だけが立っていた。みるくは椅子から立ち上がり、ステテコの裾を片方だけ膝までまくったまま、誰もいない部屋で右手を高く上げた。
「正義は勝つのでしゅ♡」
推奨レベル三十の相手をレベル五十二で倒したことなど、今はどうでもよかった。人より二十二レベル余分に上げても、六回挑んでも、最後に立っていた者が勝者である。みるくは攻略帳面の「三十階」という文字へ大きな花丸をつけ、冷めたおじやを温めるため台所へ向かった。魔塔の正義には、かわいさと耐性と、少々しつこすぎる根性が必要だった。
「幼女を甘く見た罰でしゅ。次からはキングスライムさんにも最後まで見学させるのでしゅよ!」