残り十レベルで、あと三十六階でしゅ
不思議の魔塔三十四階の休息所で、みるくは実績手帳を開いたまま動かなくなった。画面にはレベル六十、踏破階層三十四、実績二十八個と表示されており、数字だけを見れば立派な中堅冒険者である。ところが魔塔は七十階まであり、レベルは七十で上限になるため、残された成長はあと十しかなかった。みるくは水色の半袖ワンピースの襟を引っ張って風を送り、指を折って残りの階数を数えた。
「あと十レベルしか上がらないのに、まだ半分も終わっていないでしゅ。これは計算が合っているのに、気持ちが合わないでしゅ。」
昼食には、冷水で締めたそうめんをガラスの器へ盛り、千切りにしたキュウリと半分に切ったミニトマトを添えた。薬味には刻みネギとすりごまを用意したが、しょうがのチューブは冷蔵庫の奥で迷子になり、賞味期限の近い納豆の陰から発見された。みるくは麺つゆへ氷を二つ落とし、そうめんを少し多めにつかんで口へ運んだ。麺は器の中で素直にまとまるのに、魔塔の予定はどうしてこんなに絡まるのかと思った。
「三十四階で六十なら、七十階では百二十くらい必要ではないのでしゅか。運営さん、レベルを三桁まで用意し忘れていましゅよ。」
食後、みるくは実績一覧をもう一度眺めた。ランク五の片手剣、両手剣、両手杖、盾はすべて達成し、なぞも二十八個まで解いている。頭、体上、体下、腕、足のランク五防具には、虹のフェザーチップを受け取れる印が五つも並んでいた。Lv五十五の報酬も受取可能であり、みるくが材料不足に困りながら何度も三十一階を歩いた時間は、きちんと数字になって残っていた。
「まだ半分ではなく、もう武器四種類と防具五部位を作ったのでしゅね。手帳はたまに、本人より仕事を覚えていましゅ。」
それでも三十五階には、魔天海フォルネーが待っていた。推奨レベル三十五の相手にレベル六十で挑みながら二度も入口へ返されたため、レベルが上がれば何とかなるという話ではないことも分かっている。道具を探している間に攻撃され、特技を選んでいる間に泥沼へ立ち、やっとメイルストロムを見つけたときには自分が床に寝ていた。テレビの下に貼った「敵を見る」「一度に全部しない」という紙の端が、冷房の風でぱたぱたと揺れた。
「これから上げるのはレベルではなく、後出しじゃんけんの腕前なのでしゅ。数字で上がらない能力は、自分で実績に書くのでしゅ。」
みるくは使い終えたそうめんの器を流しへ運び、洗濯機から取り出した白いタオルを椅子の背へ掛けた。それからノートを開き、「敵の技を一つ見てから動けた、一ポイント」「道具を戦闘前に確認した、一ポイント」「負けてもコントローラーを投げなかった、百ポイント」と書いた。公式の上限が七十でも、観察力や操作の順番や不撓不屈には上限がない。みるくは女神の杖を持つ小さな魔法使いを三十五階の入口へ立たせ、三度目の戦いに備えて指をゆっくり開いた。
「あと十レベルしかないのではありません。ここからは、手帳に載らないレベルを上げるのでしゅ。」