後出しじゃんけんで勝ったのでしゅ
魔天海フォルネーの巨体が床へ沈んだ瞬間、みるくはコントローラーを握ったまま、画面を二度見した。白地に赤と金の飾りが入った部屋着の袖は肘までめくれ、右手の親指には十字キーの跡が残っている。勝利を示す画面は消えず、入口へ戻される気配もなかった。みるくは椅子から腰を浮かせ、冷房の風で揺れる攻略メモへ顔を向けた。
「やったー。勝ちました。勝てたんでしゅ♡」
テレビの下には、「敵が動いたら横。敵が終わったら一つ押す」と太い文字で書いた紙が貼ってあった。今回は特技を探している最中でも、フォルネーが動けば選ぶのをやめ、まず横へ移動した。泥沼ポンプもブラストウェーブも、名前を最後まで読もうとはせず、敵の頭上に文字が出たら体をずらした。攻撃の機会を何度か見送ったが、倒れずに立っていれば、メイルストロムを撃てる時間はまた来た。
「後出しじゃんけんは、出すのが遅い人の負けではなかったのでしゅ。相手の手を見てから出す人の勝ちだったのでしゅ。」
台所へ行くと、前祝いで使った檸檬が半分、ラップに包まれて冷蔵庫に残っていた。みるくは冷凍庫から小さなカップのバニラアイスを取り出し、檸檬を少し搾って、赤と黄色のパプリカを刻んだ皿の横へ置いた。祝いの献立として正しいかは分からなかったが、ヒレカツとたっぷりのキャベツで予祝を済ませた者には、勝利後の食べ物を自由に決める権利がある。アイスの蓋についた分をスプーンですくいながら、みるくは昨日撮った予祝写真を開いた。
「この人は、まだ倒していないのに勝った顔をしていましゅね。未来のみるくから、結果を先に聞いていたのでしゅ。」
レベル五十八で二度負け、六十一でも技を見られず、六十二になって再び扉を開けた。注意欠陥多動性障害の頭は道具、特技、HP、MPを一度に確認しようとし、識字障害の目は小さな文字の列で何度も迷子になった。それでも「全部を見る」をやめ、「横へ動く」と「一つ押す」に分けたことで、画面の中に初めて順番が生まれた。女神の杖も、ためる参も、グレイトマーマンも働いたが、最後まで床に立っていたのはみるくだった。
「苦手が消えたのではなく、苦手なままで勝ち方を作ったのでしゅ。」
食べ終えたアイスの容器を流しへ置き、みるくは実績手帳を開いた。三十五階突破という一行は、数字だけなら短かったが、その裏には材料集め、防具の錬金、三十一階から突然始まった魔法職、三度の敗北、予祝のヒレカツが詰まっている。椅子の背には取り込んだままの白いタオルが掛かり、机には麦茶の輪染みが残っていたが、今だけは片づけなくてもよかった。みるくは攻略メモの余白へ大きな丸を描き、その下に新しい実績を書き加えた。
「魔天海フォルネー撃破。不撓不屈、達成でしゅ。うふふ、この達成感がたまりましぇん♡」