魔塔にこもれば棺桶屋がもうかる
魔天竜ブーネイに何度目か分からない敗北を喫し、みるくはHPがほとんど残っていない状態で休息の間へ戻された。白地に赤と金の飾りが入った神官服は見た目だけなら王宮の大司祭だったが、財布の中身は参拝客のいない賽銭箱より軽い。倒されるたびに所持金が半分になり、最初は宿屋へ駆け込めたものの、ついには宿泊代まで払えなくなった。宿屋の主人は笑顔を崩さず、瀕死のみるくへ料金表を差し出した。
「お金のない重傷者には、せめて待合室の椅子を貸してほしいでしゅ。」
現実の部屋では、薄紫色の半袖シャツを着たみるくが、冷ややっことトウモロコシを並べた食卓の前に座っていた。豆腐には刻んだネギと鰹節を載せ、トウモロコシには塩を少し振ったが、ゲーム画面の中では薬草一枚にも財布の事情がついて回る。みるくは箸で豆腐を四角く切りながら、風が吹けば桶屋がもうかるという昔の話を思い出した。不思議の魔塔へ冒険者が入れば、ブーネイが暴れ、冒険者が倒れ、棺桶が必要になる。
「不思議の魔塔にこもれば、棺桶屋と葬儀会社はうはうはでしゅ。ブーネイから紹介手数料をもらっている可能性がありましゅ。」
次の挑戦では、開始と同時にレジェンドホースのツボを使い、伝説の結界を張ってもらった。みるくは魔結界と心頭滅却をかけ、敵が動いたら横へ逃げ、床が光れば離れ、じひびきが来そうならジャンプした。それでもバギムーチョとれんごく火球が続き、回復しようとベホイムを探している間に、頼みのレジェンドホースが煙のように消えた。みるくは消えた場所を一秒ほど見つめ、その一秒で大地裂きを受けた。
「途中でツボが消えるとか、なしにしてください。派遣契約なら、せめてボス戦終了まで勤務してほしいでしゅ。」
休息の間へ戻るたび、所持金は見事な勢いで半分になった。百が五十に、五十が二十五になる様子は算数の教材として分かりやすかったが、瀕死の冒険者には教育的配慮など必要ない。宿屋へ泊まれず、みるくは残った小銭を握り、敵から逃げて金を拾おうと再び階段へ向かった。しかし逃げている途中にも敵は追いかけてきて、素材を一つ拾う前に棺桶屋の新規顧客となった。
「戦って死に、逃げても死に、休む金もない。これは冒険ではなく、マゾゲームの極みでしゅ。」
みるくはトウモロコシの粒を前歯で一列だけきれいに取り、冷蔵庫から麦茶を出した。机には勝利したフォルネー戦のメモが残り、その隣には新しく「ツボは消える」「お金は預ける」「宿代を残す」と書き加えられている。ブーネイにはまだ勝てなくても、負けるたびに次の被害を一つ減らす方法は持ち帰れた。みるくは最後のトウモロコシを食べ、財布の中で音もしない小銭を確認してから、コントローラーを握り直した。
「棺桶屋さん、今のうちにもうけておくといいでしゅ。次に倒れるのは、ブーネイの番でしゅ。」