レベル六十五の床そうじ係でしゅ
みるくは魔天竜ブーネイの足元で、今日もきれいに床へ伏していた。白と金の神官服にはブレス耐性とHPアップが付き、頭上にはレベル六十五という立派な数字が輝いている。それでもブーネイは数字を読めないらしく、れんごく火球とバギムーチョを遠慮なく投げてきた。休息の間へ戻されたみるくは、コントローラーを膝へ置き、薄黄色の半袖シャツの襟元をぱたぱたさせた。
「レベル六十五で四十階の床を何度もなめているのは、みるくだけでしゅか。床の衛生管理を任された覚えはありましぇん。」
台所には、昼に作ったソース焼きそばが半分残っていた。キャベツ、豚肉、もやしを入れすぎたため、麺より野菜のほうが多く、青のりは袋を振った拍子に一か所だけ山になっている。みるくは冷えた焼きそばを電子レンジへ入れ、温まるまでの一分間に動画サイトを開いた。画面の中ではレベル四十にも満たない冒険者が、ブーネイを手際よく倒していた。
「どうしてこの人は四十未満で勝ち、みるくは六十五で葬儀会社の常連なのでしゅ。レベル二十五の差は、どこへ出張しているのでしゅか。」
三十九階までの普通の敵には、一度も倒されたことがなかった。女神の杖からメイルストロムを放てば敵はまとめて消え、なぞ解きではスキャンダルもラリホーも成功させた。ところがブーネイ戦では、心頭滅却を探している間に大地裂きが来て、横へ逃げた先にはジバルンバが置かれ、ジャンプを忘れた瞬間にじひびきが来た。レジェンドホースが途中で帰ったことにも気づかず、次のメイルストロムを待つCTだけが、病院の待合室より長く感じられた。
「普通の敵は能力試験で、ボスは運転免許の実技試験でしゅね。筆記で満点でも、電柱へ突っ込んだら不合格なのでしゅ。」
電子レンジが鳴り、みるくは焼きそばへ紅しょうがを載せた。動画の冒険者は敵の技名が出た瞬間に動いていたが、みるくは小さな文字を読み、特技を探し、HPを確認するだけで頭の中が満席になる。レベルが上がればHPと能力は増えても、メニューの文字が大きくなったり、CTが短くなったり、ツボの馬が残業してくれたりはしない。みるくは豚肉を一切れつまみ、攻略帳の余白へ新しい結論を書いた。
「みるくが弱いのではなく、レベルでは上がらない科目を試験に出されているのでしゅ。」
その夜、みるくは再戦せず、洗濯物を畳んでから白湯を飲んだ。YouTubeに映るのは誰かが勝った一戦だが、みるくの机には材料集め、防具の作り直し、減り続けた所持金、胃薬の箱まで全部残っている。フォルネーにもレベル六十二まで負け続けたが、最後には「敵が終わったら一つ押す」で倒した。ブーネイの床を十分きれいにしたみるくは、攻略帳を閉じ、明日の自分へ短い伝言を残した。
「本日の床そうじは終了でしゅ。ブーネイさん、明日は自分でモップをかけてくだしゃい。」