ネイビーの花束と届かないダイヤモンド
みるくは銀色のドレスの裾を花束に引っかけないよう、両手でつまみながら部屋の中央へ進んだ。白い編み上げブーツの周りには、赤、白、桃色、オレンジの花束がぎっしり並び、最後に置いたネイビーの花束からは雨にぬれた庭のような香りが漂っている。机の上には冷めた卵焼き、半分残った塩むすび、花の名前を書き込んだ帳面があり、椅子の背では洗濯した白い靴下が片方だけ風に揺れていた。
「十本で二万ゴールド、もう十本で二万ゴールド、さらに十本で二万ゴールド。三十本で六万ゴールドなのら!」
「今回は数も代金も合っています」
「これでおわりだー!」
みるくは両腕を振り上げ、勢いよく一回転した。銀色のスカートがふわりと広がり、後ろにあった白い花束を倒しかけたが、スライムが体当たりして支えた。ネイビーの花束が表す言葉は「調和」なのに、この部屋では花束と花束が場所を奪い合っている。
「全部そろったから、フラワーショップ『マガザン』に飾るのら。壁も床もお庭も花だらけにするのら!」
「ところで、そのマガザンはどこにありますか?」
スライムに聞かれ、みるくは笑顔のまま固まった。机の引き出しを開け、期限切れの福引券、丸まったレシート、なぜかしまってあった海苔をかき分けると、「2024年度ランク特典」と書かれた案内が見つかった。マガザンの家キットは二千九十円、室内用の壁や鉢植え、お庭用の塀やタイルなど全十六点の家具庭具セットは二千八百六十円と書かれている。
「ううう。マガザンは2024年度のダイヤモンドランク特典だったのら」
「今年もダイヤモンドまで行けば、もらえるのでは?」
「今年はもうダイヤモンドを通り越して、オリハルコンを目指しているのら!」
みるくは胸を張ったあと、力なく椅子へ座った。今年どれほど買い物をしてランクを上げても、2024年度の特典が後から届くわけではない。ダイヤモンドより先へ進んでいるのに、過去のダイヤモンド商品には手が届かないという、冒険のボスより分かりにくい仕組みだった。
「つまり、今年のランクではどうにもならないのら。お金を出して買うしかないのら」
「二千九十円と二千八百六十円です」
「合計四千九百五十円。五千円近くリアルマネーが必要なのら!」
みるくが財布を逆さにすると、五円玉、輪ゴム、いつのものか分からない飴が一つ転がり出た。六万ゴールドでネイビーダリアをそろえた直後に、現実世界から四千九百五十円の請求が待ち構えているとは思わなかった。塩むすびをかじって考えた末、みるくは帳面に大きな字で予定を書き込んだ。
「なので、なので、マガザンは二十六日まで延期なのら!」
「花束集めは、今日で完成ですね」
「そうなのら。花束の冒険は終わったけれど、店を買う冒険が残ったのら。やっぱりどこまで行っても、どこか抜けてるのら」
みるくはネイビーの花束を両腕で抱え、その深い青色を満足そうに眺めた。それから「26日、マガザン」と書いた帳面を忘れない場所へ置こうとして、花束の一番奥へ大切にしまった。見えなくなった帳面を探す次の冒険が始まるまで、あと五分だった。