夜闇はもの寂しいものだ。先行きの見えない不安。自分の進むべき道が見えないと、人はなんだか自分が居る場所を「底」と感じてしまう。お天道様は、高い、高いところから照らしてくれる。光に照らされた道を歩む安心感に比べると、無明の道を人知れず行く頼りなさといったらない。
故にーー月は夜空に有りて神々しい。まだ文明の松明がない原始の世界において、太陽のない夜には、月だけだ。月だけが暗い世界を照らしてくれる。ひっそりと、あたたかく。
そんな、月の光に照らされて輝く、灯火のようなひとだった。無明の闇を流離うたよりなき私の、たしかに夜闇に見た光だった。
ーー月下美人ーー
夢を見ていたんだ。世界を救う夢を。人知れず故郷を後にして、最低限の物だけを身につけて、殆ど身一つで、遠い道を歩んだ。悲しい人、困っている人、命を落とす人、それら全てを、自分が救うんだと、心に決めていた。
ーーけれど、現実はそう上手くいかない。
「ちっ、相変わらずだな。この程度のモンスターに苦戦してるようじゃ、俺もまだまだだ」
故郷の小さな村を飛び出した俺は、経験値を稼ぎつつ、装備を買う金を稼ぐ目的で、モンスターが多い遺跡をあえて根城にしていた。そうしてモンスターを狩りはじめて何日経っただろうか……思うように強くなれない自分に、内心俺は苛立っていた。
「くそっ!やっぱりまだまだ戦うモンスターのレベルが低いんだ、もっと強い敵と戦わないと……ん?おぉ、金色の宝箱だ、レアアイテムがドロップしたぞ」
このモンスターのレアドロップ品は高値で売れる。久しぶりにまとまった収入が手に入ると興奮した俺は、背後から忍び寄る別のモンスターに気づかなかった。
「……なんだよこれ、ちいさなメダルじゃないか。くそっ、レアドロップかと思ったのに、期待させやがっ……」
「シャア~!」
「!?やばいっ、反応が間に合わな……」
「……?なんだ?モンスターの動きが止まったぞ?」
パチン。
ツヅカナイ