未の刻―。
呪われた大地にて怪しげな人影が二つ。
暗黒大樹に謎の人物が手を触れる。
謎の人物は不敵な笑みを浮かばす。
「これほどの魔瘴がこの大樹にあるとは…。―素晴らしい。500年分の魔瘴を戴こうとしよう。然し―邪魔者が居てはゆっくりと出来ませんねぇ。そこに隠れていないで、出て来てはどうですか?お嬢さん」
「くっ…バレていたんですね」
物陰からひょっこりと現れるのは煌びやかな白髪を靡かせる少女の姿。
彼女の名はシルティア・メルキュール。
メルキュール家の長女で、勇者姫と友達でもある彼女は、グレンで起きた事件以降、首謀者を追いかけていた。
そして、カミハルムイで首謀者の演説を聞いた途端意識不明の冒険者や民が続出したとの噂で、偶然近くに居合わせた彼女が駆け付け、呪われた大地にて行動を観察していた所だった。
然し、運が悪いのか首謀者にバレてしまうのだった。
「どうして…私がいるってことを…」
「それは勿論、貴女の様な神聖な『気脈』が私の背を刺してくるのですよ。折角戴いた魔瘴が蝕まれる程に。私はね―脅威になりえる人物はたとえ強かろうがなんだろうが始末しなきゃ安堵が得られない…。さぁ!行きなさい!『幻影騎士』!!!」
首謀者の隣に居たフードが疾走し彼女の方へ攻めよる。
疾走の勢いでフードが剥がされ露わとなる。
その姿はまるでシュバルツシュルトのよう。
対峙する時、互いの剣が衝突しあう。
鍔迫り合いをしながらも、彼女は問う。
「なぜ、シュバルツシュルトが…?」
だが、対峙し合う彼は通常のシュバルツシュルトとは異なり人型により近い物だった。
戸惑う彼女を嘲笑うかのように首謀者は言う。
「半分正解半分不正解とでも言えましょうか。彼はシュバルツシュルトと過去の狂戦士だった魔族の魂を入れたものでね。名付けるなら魔物族とでも言おうか」
「魔物族…!?」
次第に幻影騎士に追い込まれる彼女は、幻影騎士の魔瘴の波動により重傷を負い吹き飛ばされてしまう。
深手を負った彼女に近寄る首謀者。
彼女はそんな首謀者に問いかける様に口を開く。
「あなたは何者なの…?何が目的…なの?」
「私は『幻影教団』の『幻影帝』。目的はただ一つ。我が神の復活ですよ。世界を滅ぼし新たな平等な世界を創成する為のね。故に、貴女の力も地位も―そして貴女の生命も!我が神の生贄となるのです…!」
彼女の首根を掴む様な所作で構えれば、彼女を浮かび上がらせ力を吸収及び消失させんとするのだった。
シルティアは苦しそうにしながら言葉が出ずにされるがままにされる。
―刹那、遠くから幻影帝の手首を掠る様に放たれるはトランプ。
吸収の阻止された彼は発砲された方向を伺った。
そこには、大樹に華麗にぶら下がる白き怪盗の姿。
神出鬼没の大怪盗、怪盗シーフの姿があった。
「邪魔者が次々と!貴様も奪ってやる!」
「往生際が悪い方だ。そのお嬢さんは私が戴こうか。」
「ふっ!出来るものならやってみろ!」
幻影帝は彼に向かって力を奪わんと掌を向ける。
同時に、目の前に煙玉が放たれ幻影帝の視界を奪った。
瞬く間にシルティアの傍に近寄る怪盗シーフ。
「お嬢様、お怪我はありませんか?」
「あ、貴方は…?」
「お嬢様を救いに参上した、ただのしがない盗賊です。さぁ、今のうちにお逃げください」
煙の中を掻き分ける様に幻影帝は、幻影騎士に指示をする。
幻影騎士は煙を切り裂く様に剣を大振りに薙ぎ払った。
隙を狙うかのよう、怪盗シーフは幻影騎士の方に白き銃を向け発砲。
幻影騎士はトランプを躱しながら接近し、怪盗シーフとの距離が狭まる。
危機迫るシーフは険しい表情だったが途端に不敵な笑みを浮かばせた。
―刹那、幻影騎士の胴体を真っ二つに斬り去った人影が横切る。
怪盗と幻影帝の間に佇む人影。
怪盗シーフは不敵な笑みを浮かべながら人影に口開く。
「ここなら、貴方が来ると思っていましたよ。―魔物斬りの殺戮者殿」