:出典:【そして伝説へ】
とある塔を探索している、4人組の冒険者の一団があった。
慎重に歩を進めながら、最上階を目指す一行。
ある程度戦い慣れてきた彼らにとって、
塔の魔物達は、必要以上におそれる相手ではなく、
冒険は順調なはずだった。
しかしー・・・
塔の三階、入り組んだ回廊を進んでいるさなか、
一団の、リーダーと思わしき少年が、
突如その場に、力無く崩れ落ちた。
その息づかいは荒く、顔は青ざめて、
脂汗がいくつも浮き出ている。
少年は、毒に冒されていた。
『お前・・・何で今まで黙ってた・・・!』
少年の兄貴分の戦士は、
眉間にしわを寄せながら唸った。
周囲の警戒に気を取られて、
よもや仲間の状態に気がつかないとは・・・
自分への苛立ちを抑えきれず、思わず語気が荒くなってしまう。
『さっき戦った奴の中に、毒を持った魔物がいたのね・・・』
戦士の相棒である、
魔法使いの女性が冷静に状況を振り返る。
この大陸での冒険歴はちょっとしたものだが、
毒性を持つ魔物と対峙したことはなかったので、
毒消し草の用意は怠っていた。
万事休す。
一団の指令塔であるべき自分の失態を、呪わずにいられない。
『わ・・・わたしのせいだ・・・!』
駆け出し僧侶の少女が、青ざめた顔でつぶやいた。
先ほどの戦いで、彼女はドジを踏んで転び、
魔物の攻撃から、少年にかばわれたのだ。
きっとその時のあの緑色の奴が毒をもっていたんです!
と、泣き出しそうな顔で、悲鳴に近い声を上げる。
大陸で名を馳せた勇者である、少年の父。
その遺志を継いで旅立とうとする幼なじみの少年を支えるため、
彼女は僧侶の道を志した。
それなのにー・・・
自分にはまだ、解毒の呪文も使えはしない。
それどころか、足手まといになっているではないか。
彼女の顔は、少年のそれよりも青ざめていた。
『大丈夫だよ・・・みんなおおげさだな・・・』
仲間達の騒ぐ声を聞いて、
少年はゆっくりと立ち上がる。
目的の場所はきっともうすぐだから、
もうちょっと頑張ってそこまで行こう、と、
にっこりと笑う。
だが、その笑顔が、相当無理をして作っているものだと、
誰の目にも明らかだった。
馬鹿言ってんじゃねぇ、と、戦士は少年をかつぎ上げる。
離せよ、と少年は抗議しながらもがくが、
その言葉にも行動にも、力は入っていない。
『速攻で、来た道を引き返す!余計な戦いは避けるぞ!』
戦士は皆に呼びかけた。
癒しの呪文でコイツの体力をつなぎながら、
最寄りの村を目指す。
今ならきっと、コイツの命は助かるはずだ。
遅効性の毒であることは間違いなさそうだが、確証は無い。
彼自身、自分の意見を信じるしかなかった。
魔法使いは、戦士と頷きあった後、
嘆息しながら、
いまだに半べそでうろたえていた僧侶を小突いた。
アンタがホイミできなきゃ、こいつは死ぬよ、と発破をかける。
僧侶は、一瞬この世の終わりのような顔をした後、
嘘のように自分を取り戻した。
一行は一路、来た道を引き返す。
一団の全員が、己の未熟を思い知ることになった、今回の冒険。
その引き金を引いたのは、
ちっぽけな、緑色のスライムだった。
これは、後に勇者とうたわれる冒険者達の、
まだまだ、駆け出しの頃のお話。
~~~FIN~~~