” ガラガラガラ・・・ ”
渾身の戦斧の一撃を受けて、ストーンマンは轟音をたてながら
バラバラに崩れさっていった。
ただの石の塊となった『 岩巨人の一部だったもの 』に、
おれはどっと腰を下ろし、深いため息をつく。
もうこれで何百体倒しただろうか。
おれがこの【 ソーラリア峡谷 】に足を踏み入れて、
すでに二日が過ぎようとしていた。
だが未だに、目立った戦果は得られていない。
慰めるように吹きすさぶ谷風を受けながら、
おれは道具カバンから、ごそごそと水筒を取り出す。
しかしー・・・
” ゴゴゴゴォ・・・ ”
水筒に口を付ける暇もなく、
再び周囲の石片達が魔力を帯びはじめ
宙に浮いたかと思うと一カ所に集結し、
みるみるうちに巨人の姿をかたどり始める。
ついには座っていた岩も動きだし、
不意をつかれたおれは、
無様にも顔面から地面に投げ出されたのであった。
『 にゃろう・・・鼻血でたわ・・・! 』
やれやれ、休む暇もなしか。
給水はあきらめて、
おれはしぶしぶ、半泣きで傍らの戦斧に手をかけた。
全くたまったものではない。
しかし、ここで弱音を吐くわけにはいかない。
そう、あの【 宝珠 】を手に入れるまでは。
【 鼓舞の雄叫び 】をあげて駆け出す。
黄昏の渓谷に、本日幾度目ともしれない、
巨岩と戦斧とがぶつかり合う轟音が響きわたった・・・
☆ ☆ ☆
【 達人のオーブ 】。
先日、世界宿屋協会より、
ある程度の実力を持つ冒険者達に配られた、
謎多きマジックアイテムだ。
持ち主が冒険で培ったあらゆる経験が
このオーブの魔力の源となり、
その魔力を特殊な【宝珠】にそそぎ込み、
さらにそれをとある【石版】にはめ込むことによって、
冒険者達は新たな力を得ることができるようになるのだという。
【基礎能力増強】【特技の強化】・・・
宝珠には様々な種類があるが、
石版にはめられる数は限られており、
冒険者達は、否応なしに取捨選択を迫られることになる。
例えば、我らがチーム【 月 】のメンバーの魔法戦士殿などは、
【フォースブレイク】の極意を極めるために、
デフェルの砂漠に旅立っていった。
というわけで、本業をパラディンとするおれは、
騎士の戦技を極めるべく、
手始めにストーンマンから得られるという
【 仁王立ちの極意 】を掴みに、
ソーラリア峡谷へ赴いたという話であった。
☆ ☆ ☆
気がつくと、周りを5体ばかりの岩巨人に囲まれていた。
どうやら、夢中になって呼びすぎてしまったらしい。
だが・・・今となっては、岩巨人など、
ただタフなだけで、必要以上におそれるべきものではない。
おれは鼓舞の叫びをあげながら
戦斧にありったけの闘気を込め、
奥義【 真・オノむそう 】を放った。
が・・・一体の岩巨人が、おれの目の前に立ちふさがり、
繰り出した無双の十連撃を、全てその一身に
受けてしまう。
見事なまでの仁王立ち。
おれは目を見開いた。
だが、オノむそうの全ての斬撃を受けて立っていられようはずもなく、
案の定岩巨人は、バラバラに崩れさってしまう。
仲間を守って自分は死ぬ。
騎士、冥利に尽きるってか・・・
一瞬、【 博愛の碑 】のことが脳裏をよぎる。
もっとも誇り高い騎士の生きざまにおれは違和感を覚え、
ガートラントの騎士を辞めた。
まあ、正確にはクビになったのだが・・・
騎士道とは。
自分が死んで、真に守れるものなど、
世の中にいくらもないだろう。
人を守って、手前も生きる。
そう、そのために必要なんだ。
『 掴んだぞ・・・仁王立ちの極意ッ! 』
・・・その岩巨人は、豪華な宝箱を落としていった。
中身はー・・・
・・・小さなメダルだった。
~~~FIN~~~