~~楽園~~
ある筋から入手した情報によると、
とある街の温泉宿泊施設には、【楽園に通じる穴】があるらしい。
昔、何かの物語で、風呂職人が風呂で溺れたとたん、別の世界に飛んでしまうとかいうものを聞いたことがあるが、その類のものなのだろうか・・・
信憑性など全く無かったが、そこに少しでも冒険の香りがするならば、放ってはおけないのが冒険者の性である。
おれはその温泉宿泊施設に潜入調査をする事に決めた。
このアストルティアで温泉宿泊施設といえば、一つしか思い当たるところはない。
《風の街アズラン》の宿屋である。
いろんな職を連れてこいと、わがままを言う少年に振り回される旅人たちを尻目に、おれはこの宿屋へと向かった。
カウンターで料金を支払い、脱衣所へ。
冒険者の中には、鎧や服を着たまま温泉に浸かる者もいるが、おれに言わせればナンセンスだ。やはり風呂には裸で入らねば。
そんな世間話を、居合わせた荒くれ者と交わしながら(オーガの自分から見ても驚くほどの筋肉をつけた男だった;)、浴場へ向かう。
ただ、《楽園》が、どんな場所か解らない以上、最低限の装備は残しておくべきだと思い、今回だけは、魔法力を増強する練金を付けたバンダナと、戦闘時に闘気を高めてくれる眼鏡だけは着用していくことにした。
幸い、浴場内にいたのは、ウェディの青年が一人だけ。
色々調べるにはもってこいの状況だ。(ただもし、いつもこんな客が少ない感じなら、この浴場運営できるんだろうか、と、心配にもなったが;)
めぼしい【穴】は無いかとさりげなく探りながら、とりあえず怪しまれないよう湯船につかる。
湯はかなり熱めだが、それがまた心地よい。
脱衣所で荒くれが教えてくれたのだが、この温泉には【リホイミウム】という成分が含まれており、戦いで負った傷や、失われた体力を徐々に癒してくれる効能があるらしい。
【楽園の穴】とは、もしかするとこの温泉そのものなのではないか。
あまりの心地よさに、眠ってしまいそうになりながらそんなことを考える。
その時だった。
刹那、おれの目に飛び込んできたモノがあった。
~第二話へ~