【 会心の一撃 】。
研ぎ済まされた技の冴えと、
極限まで高めた気合いを以て
一瞬で敵を打ち倒す必殺の一撃。
たとえスクルトのかかった『じごくのはさみ』だろうと、
身体自体が金属質の『メタルスライム』だろうとも
この必殺の一撃、防ぐことあたわず。
☆ ☆ ☆
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『 必殺剣 』。
それはきっと遙か昔から、
人々の間に語り継がれているロマンの一つだろう。
おれがその名を初めて意識したのは、
子供の頃に見た物語。
主人公の行く手を阻む山賊達に
用心棒として雇われていた謎の剣士が、
屈強に鍛え上げた主人公の仲間を、
鋭い必殺剣をもって、一刀の下に斬り伏せたのだ。
そのインパクトが子供心に響いたことを、
おれは今でも忘れてはいない。
それからも、色々な作品で
おれは【 必殺剣 】に触れることになる。
『 斬鉄剣 』という刀を一閃し、
いつも『つまらぬもの』を斬ってしまう剣士や、
八本足の馬に跨り、
目の前に群がる魔物達を、一撃で斬り伏せる
幻獣の騎士。
薄暗い地下迷宮の闇に潜み、
音もなく、冒険者達の首をはねる影。
等々、
書ききれないほどの数の
『 必殺剣 』が登場する物語に触れてきた。
そしてそれらは、
ロマンや憧れ、そして時にはトラウマとして、
おれの心を掴んで離さなかった。
しかし。
おれは自らが冒険者として旅立つ際、
どういう技能を伸ばして行くのか考えたとき、
真っ先に『必殺剣』を頭から閉め出した。
はっきり言って、
【 ガラじゃなかった 】
からだ。
憧れはあっても、自分自身が
華麗かつ鋭い必殺剣を振るうという姿など
微塵も想像できん。
というわけで、おれは自身の旅で
【 かいしんの一撃 】に拘ったことが
実は、ほとんどない。
幸いなのか必然なのか、
本職であるパラディンで扱う武器
【 戦槌 】や【 長槍 】も、
状態異常を神頼みするのでもなければ
会心頼みで戦うタイプの武器ではないので
『 会心よりも攻撃練金 』
すなわち、
切れ味よりも破壊力を取る事を
地で行く冒険を続けてきたのである。
だがー・・・
最近は
そうもいかない状況に出くわしている。
理由はいくつかあるが、
一番はやはり
【 ダークキング 】
の存在だ。
『 魔法戦士入りでDKⅣを倒す 』
それを対DKの最終目標と定めたおれは、
魔戦と組んだときに力を発揮するであろう、
片手剣アタッカーの修行をすることに決めた。
そのために、今まで無視し続けてきた
【会心系の宝珠】を手に入れるための旅を
始めたのであった。
手始めに狙うのは、
【 奇跡の会心攻撃 】の宝珠だ。
この極意が得られる修行相手はー・・・
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おまえか、【 鬼棍棒 】。
『 極限まで鋭く、そしてある種の美を感じる 』
おれの中の『必殺剣』のイメージと、
全く合わない魔物である。
コイツと戦うことで、
本当にその技が得られるというのか?
おれはしばらく鬼棍棒と戦いつつ、
その挙動を注意深く観察することにした。
といっても、奴がやることは一つだったが。
【 おもっきし力んで、そして全力で殴る 】
それだけだ。
普段、おれが斧で殴るのと、どう違うというのか。
と思ったが
しばらくして思い直した。
奴には、迷いが一切感じられなかったからだ。
己の一撃に絶対の自信を持ち、
目の前の敵を打ち砕く。
ただそれだけを考え、
迷い無く全力で、一心不乱に打ち込む。
必殺の・・・会心の一撃とは、
技術だけで繰り出すものでは無い。
無我、無心。
その果てに奇跡は起こる?
・・・思えば、
【 奇跡の会心攻撃 】という技能は、
会心の一撃のダメージを、
ほんのわずかに強めるにすぎない。
名前負けじゃねーの、とも思っていたが、
どうやら、そうでもないらしい。
奇跡とは、
【 全力を積み重ねた結果 】の事を言うのか。
あと2、30秒あれば勝てたかも。
そんな状況を【 奇跡に変える 】。
そんな力が、奇跡の会心攻撃なのだろうか。
そう信じることにして、おれはしばし、
鬼棍棒とぶつかり稽古を続けることにしたのだった。
(;゜ロ)< 30分で3個しか落とさんかったがね!
~~~FIN~~~