今日おれは、ゴブル砂漠の西方で、魔物の群れと戦っていた。
チームクエで、【ゴブル砂漠西征伐】の依頼が出たためだ。
ここにいる魔物たち、とりわけ【グール】は、ある程度の力を付けた冒険者たちにとって、丁度良い修行相手となる。
最近は、チームクエの消化等で、落ち着いて鍛錬をする時間があまりとれなかったので、一石二鳥とばかりに、おれはこの依頼に飛びついたのだった。
先の【大悪魔】達との戦いに敗れてから、おれは【盾】の扱いを練習し始めている。
今までは、オノや棍を振り回し、
「盾なんかイラネ」
と、豪語していたが、最近の団内での僧侶需要の高さもあり、渋々ではあるが、おれは一端の
【スティック僧侶】を目指すことにしたのだ。
【パーティ内での需要にあわせて、ある程度自分の役割を変えられる】
・・・そんな柔軟さを身につけることも必要だろう、と今は自分に言い聞かせることにしている。
そんなこともあって、おれは今日、長らく鍛錬を怠っていた【魔法戦士】の職に就いて、盾の技能を上げることにしたのだった。
まあ、今回の話はそんな事情とはあまり関係なくー・・・(←)
たまった元気玉を消費しつつ、【グール】や【ブラッドハンド】達と戦闘を続けていると、
どこからか、かん高い、悲痛な叫び声が聞こえてきた。
酒場で紹介してもらった仲間に【バイシオン】をかけつつ、おれは声がした方向に目をやる。
声の主はー・・・
小さなドルボードに乗って疾走する、サラサラヘアーのプクリポの女の子。
(いや、成人女性かもしれない。はっきり言って、オーガのおれにはプクの大人子供の見分け方はよくわからないのだが、まあ、今はそれは置いておこう。)
どうやら、周りの冒険者達に助けを求めているようだ。
女の子「ザオお願いします><」
今にも泣き出しそうな顔でそう連呼しながら、ドルボードで駆け回っている。
ああ、蘇生できる仲間が、不意の事故でやられてしまったのだろうか・・・。
できることなら助けてあげたいが、今のおれは魔法戦士。
その上、酒場で紹介してもらった仲間達は、何のルールか知らないが、同じPT以外の冒険者を手助けすることを禁じられている。
今のおれにはどうすることもできないな・・・;
そう思いながら、魔物達との戦いを続けていると、その女の子が、ついにおれの目の前にやってきた。ドルボードの動きを止めて、必死そうにおれに呼びかける。
女の子「ザオおねがいします><」
うう、なんて目をしているんだ;;
もし今おれに【ザオ】ができたなら、戦闘を放り出してでも助けに行くのに!
だが、今のおれは魔法戦士・・・;;どうすることも・・・
女の子「仲間が><」
ああああ、どうしよう、【せかいじゅのは】使う?いや、知らない人にそんなことしたら普通に引かれるだろ;
どうすることもできない以上、彼女をこんな所に立ち止まらせているわけにはいかない;
【グール】に頭からカジられながら、おれは叫んだ。
ザラ 「すいません!!魔法戦士なんです;;」
そのまま通り過ぎればいいものを、その子は一瞬とどまって、もう一度声をかけてくれた。
女の子 「はいです!」
女の子 「ありがとぉ><」
グールをぶら下げたまま、おれはその子の背が遠ざかっていくのを見守る。
ああ、なんて礼儀正しい子なのだろう;;
どうしよう、近くのテントのルーラ石持ってるし、【おいのり】でつないでもらって、ザオ持ち職になってくるとか?;
いやいや、そもそもおれはお仲間の人のいる場所を知らないし;
それに、この砂漠結構人いるし、おれ以外の誰かがきっとぶべらッッ!!
不意に、猛スピードで岩石が直撃したような、ものすごい衝撃が全身を襲った。
きりもみ状になって宙を舞いながら、おれはかろうじて何が起こったのか確かめた。衝撃の正体はー・・・
【うごくせきぞう】
いつの間にか【ブラッドハンド】に呼ばれて戦場に現れていた、このおっさんの石像(いや、石像のおっさんというべきか)が、その【石の拳】でおれをぶん殴っていたのだ。
仲間の【ベホイミ】を受けて、なんとか体勢を立て直す。
とにかく今は、戦いに集中しなければ・・・
・・・
・・・
・・・
予想以上に長引いた戦闘の後、女の子の姿はもうどこにもなかった。
その後も、転戦しながらなんとなく、その子の消えていった方向に向かってはみたが、やはり姿を見つけることはできずー・・・
願わくば、お仲間がちゃんと誰かに助けられていますように。
一端の【スティック僧侶】・・・か。
案外、いいものなのかもしれないな・・・。
~~~FIN~~~