【水やりWARS】
数ヶ月前、突如、この世界を襲ったモノがある。
・・・【災厄の帝王】?
いやいやいや、そんなものではござぁせん。
アストルティアを突如襲ったそれはー・・・
【家庭菜園ブーム】!!!!!
今や、住宅村のほとんどの家に、カカシ付きの畑が置かれているのは、もはや周知の事実である。
しかもである。
花の民であるプクリポや、自然を愛するエルフの民ならいざ知らず、
質実剛健なオーガ達も、職人気質なドワーフ達も、一心不乱に
【お花】ばかり育てているというのだから驚きだ。
少なくとも、冒険者の中で、畑で野菜を育てているという話をおれは聞いたことがない。
というのも、背景には、お花は、【装備品のカラーリング】に使えるので、お洒落に力を入れている冒険者達が、こぞって買い集めているという事情があるからだ。
人気の色の花は、なんと一輪1500Gほどになる。
冒険者達の必需品ともいえる【やくそう】や【どくけしそう】などと比べてみれば、これがどれほどの高級品といえるかは想像に難くない。
そんなこともあって、貴重な花を育てて一財産築こうとする者や、自分自身の冒険に彩りを与えたい者達などが、こぞってお花を育てているというわけだ。
かく言うおれも、その一人であるわけだがー・・・
家庭菜園が根付いてくると、必然的にある文化が生まれた。
友人や、近所に住む人々との、畑の【水やり】を通じた交流である。
この交流を、盛んに行っている者もいれば、諸事情を含めて、全くの無頓着である人もいるだろう。
そう言うおれはー・・・
そこそこの、【水やり魔】なのではないかと推測される。
おれの一日の冒険は、武器鍛冶ギルドへの納品、そして水やりから始まる。
まずは、自分の畑。
次に、同じ丁目の同じ地区に住んでいる人たち、いわゆる【ご近所さん】の畑。
その後で、旅団メンバーのすべての畑を回りつつ、特にお世話になっている友人様、数軒の畑もついでに訪問。
あとは、自分の畑のお世話をしてくれた人にお返しに行き、
数日に一度、時間にとても余裕があるときは、絡みの少ない友人様のお宅にも訪問することにしている。
・・・これが多いのか少ないのかは良くわからないが、
まあ、取りあえずは自称【そこそこの水やり魔】というわけだ。
善意の押しつけを望まない人も、中にはいるだろう。それはわかっているつもりだが、なんだか、この日課を終えないと、冒険をしていても落ち着かないのだ。
この【水やり】の旅は、もはや自分のためだと言えよう。
これは、そんな【水やり魔】達の物語。
限りなくノンフィクションである。
ある日、おれの畑に、全く知らない人が水をくれていた。
自宅のチャイムには、何の伝言もない。
【水やり魔】を語るおれの畑に、伝言もなしに水をくれるとは・・・
これは、【挑戦】と見て間違いないだろう。
おれは、冒険者の登録状況を統括している【冒険者の広場】と呼ばれる場所に赴き、その人の名前を頼りに名簿に目を走らせる。
しかし、いくら探しても、その名前を見つけることはできなかった。
【広場】のネットワークにも引っかからない、だと・・・;
お返しに行けないのはすっきりしないが、どうしようもなかったので、取りあえずその日は、そのことは考えないようにするしかなかった。
それからしばらくしてー・・・
ある日、何気なく入ったご近所の家の【スライムチャイム】に、その人のメッセージが残されているのを発見した。
メッセージは・・・
「○丁目○番地で、バザー始めました」
なんと、ご丁寧に住所を書いてあるではないか。
これは良いモノを見つけたとおれは、勇んでその人の家に行き、嬉嬉として畑に水をまき、スキップで帰った。
ああ、スッキリしたw
その日のおれは満足だった。
しかし、次の日・・・
おれはまた、困惑することになる。
~~~長くなるのでつづく~~~