【水やりWARS・後編】
おれが困惑した理由は、明白だ。
次の日も、自分の畑に、またしても全く知らない人からの水やりを受けていたからだ。
勿論前回の人とは、また別の人である。
おれ、何か目立つようなことやったっけ・・・?
酒場で雇う、もしくは雇われた、の関係?
迷宮でたまたまご一緒した人?
思案を巡らせても、なかなかピンとこない。
だが、もう一度畑に戻ってきたところで、突如おれの頭に、電球が閃いた。
この名前・・・よく見れば、昨日、水やりのお返しをした人に、関連が有りそう・・・。
親族か、はたまた仲間内のコードネームか。
ともかく、昨日の家の人に【ゆかり】がある者と見て間違いなさそうだ。
そこで、おれはあることを思い出した。
そういえば、昨日の人の家の看板に
「○○丁目、○○番地で二号店やってます。」
などと書かれてあったな・・・。
これは有力な手がかりになるかもしれない。
メモった住所の書かれた紙を頼りに、その場所を訪れてみる。
そして、そこの家主の名前はー・・・
ーーーー・・・ビンゴだった。
やった、見つけてやったぞw
おれは再び電光石火で水を振りまき、ついでに肥料も投下し、鼻歌混じりで帰還した。
そして次の日・・・
おれの畑は、当然と言わんばかりに、また、知らない人から水やりを受けていた。
今度の名前は、今までと関連がありそうな、無さそうな、微妙な感じ。
やはり広場の名簿にも引っかからない。
今回ばかりは諦めるしかないのかー・・・
でも、なんか悔しかったので、とりあえずは昨日の人の家、一昨日の人の家の【スライムチャイム】をくまなく調べることにしてみた。
もはやちょっとした、探偵気分である。
どちらの家にも、チャイムには、ポツポツと、水やりへのお礼のメッセージが書かれていた。
ー・・・なるほど、あらかたの予想はついていたが、やはり【犯人】は、生粋の【水やり魔】か・・・。
おれは次に、周辺の家の捜索を始めた。
不法侵入は本意ではないが、【犯人】宅のチャイムにメッセージを入れていた人の家を見つけたので、好奇心を抑えられず突入してしまった。
そこでは手がかりを得ることはできなかったが、ほかの家などを調べている間に、どうやら、【犯人】宅に残されたメッセージは、全てそのご近所さんのモノだったということが解った。
なるほど、【犯人】は、ほぼ近所の住民限定で、水やりをしているのだろうか・・・。
そこで疑問が浮かぶ。
じゃあ、犯人は何故、地区も、丁すらも異なるおれの家に、わざわざ水をやりにきたのだろう・・・?
答えは、程なくして出てきた。
思えば、おれが【ご近所】として認識している範囲は、自分の周辺の数軒の家だけだった。
同じ丁目の、別の地区は、家を建てた時にふらりと見て回っただけで、住んでいる人の名前までは記憶していない。
かすかな希望を頼りに、おれは同じ丁目の別の地区に足を踏み入れた。
そしてー・・・
思った通りだ。
【三人目】の名前がそこにあった。
ようやく、ようやくみつけたぞ!
おれは、達成感と、うれしさと、僅かにおぼえた怒りの入り交じった感情で【犯人】の畑に水をまく。
さて、一仕事終えたが、このままではおわれまい。
チャイムに、思いの丈を刻み込んで帰るとしよう。
深呼吸して、家の軒先に立つ。
そしておれは、静かに、ドアノブに手をかけた。
鍵がー・・・かかっていた。
【後日談】
【犯人】は、それからも毎日のように、おれの畑に水をやりにくる。
無論、おれも、水をもらったときは、犯人の家にお返しにいく。
ヒドいときは、一日の内に三人全員で水をやりにくるが、お返ししないのも気が引けるので、とりあえずは全員にお返しにいく。
そしてこの犯人、やはりおれの家だけでなく、恐らく同じ丁目に住んでいる全ての住民の家に、毎日のように水をあげているのだと思われる。
おれが知る中で、間違いなく最強の【水やり魔】・・・。
チャイムにはメッセージを残してくれることもあるし、
自宅のモーモンバザーの品を買ってくれることもある。
ばったりあっても喋ってくれないが、基本的には良い人だ。
さて、どんなメッセージを残していったのかと言えば・・・
「水やりおじさん二号参上!」
ああ、水やり戦争はまだまだ続きそうだw
~~~FIN~~~