蘇生呪文の輝きが身を包む。
どうやら少しの間、おれは
気を失っていたようだ。
『 衰弱状態で戦うのは危険です!
一度、本陣まで下がって下さい! 』
…蘇生を施してくれたであろう
エルフの僧侶が、そう言い残して
他の負傷者の元に、あくせくと走って行く。
『 すまない、そうさせてもらう! 』
礼を述べると、おれは一旦体勢を整えるべく
まだぼやけ気味の頭を叱咤しながら、
前線を退いた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
あれから…開戦からすでに
一昼夜以上の時間が過ぎていた。
冒険者達の獅子奮迅の活躍もあり、
我らが軍は善戦に善戦を重ねてはいるが…
やはり敵は数が多すぎる。
倒しても倒しても、相手の勢いは
全く衰える気配がしてこない。
一日中、万魔の塔やピラミッドで
戦い明かしているようなものである。
…地の利と
ファラザードからの補給線を活かし、
負傷者、極度の疲労者は前線から退かせ、
本陣で回復したら再び送り出すという
ローテーションを組んで
どうにか持久戦の体に持ち込めてはいるが…
はっきり言ってジリ貧状態。
兵達の疲労の色も、
段々と隠せなくなりつつある。
かくいうおれも、
剣を振るう腕が、まるで棒のように
なってきているのを感じていた。
『 いよう兄弟、生きてるかい。 』
…本陣に戻ると、全体の指揮をしている
ベルトロが声をかけてきた。
『 なんとかね。』
…応急手当を受けながら、肩をすくめる。
『 実際、アンタ等アストルティア勢は
良くやってるよ…
俺達が持ちこたえて居られるのも、
アンタ達のお陰さ。 』
我ながら、いつかの遠征は取りやめて正解だった、と彼は冗談めかして笑った。
『 しかし、正念場はこれからだよな… 』
二人して腕を組んで
戦況を俯瞰で見据える。
やはりどう考えても劣勢だ。
『 それなんだが… 』
おれと同じく本陣に戻って来ていた
壮年の戦士が口を開く。
『 聞いてた通り、魔物達の動きが
おかしいと思わねえか。 』
確かに少し、疑問には感じていた。
…魔物達も生物である。
飲まず喰わずで一昼夜戦っていれば、
さすがに疲れるはず。
なのに、奴等は一心不乱に戦い、
犠牲を一切気にする風でもなく
南進してこようとする。
普段の生体からでは考えられない行動だ。
周りに続々と、
同じ疑問を抱いていた
冒険者達が集まってくる。
『 滅神由来の強大な邪気か何かで
操られてるってのが
妥当な筋だと思うが… 』
『 もしかしたら、あの中に
指揮官っぽい術者が居るのかも。』
『 ならそいつをやっちまえば…
魔物の洗脳が解けて、
逆転できるんじゃあないか? 』
『 だがあの群れの中から
どうやって探す。
今の兵力で闇雲に突貫しても、
返り討ちが関の山だぜ。 』
『 せめて援軍、か… 』
…相談している横で、ベルトロが
空を仰いで、口角を上げるのが見えた。
『 …おっと、その援軍サマが
ようやくお着きのようだ。 』
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
上空から、一匹のソードフライヤーが
何かを叫びながら降りてくる。
『 ベルトロォ!
ち、生きてやがったかヨォ! 』
『 うるせェ、遅っせぇーんだよバカ! 』
『 伝令だァ!
我らバルディスタ軍、
ゲルへナ方面よりそのまま
敵陣の背後から強襲するぜェ!
それと…気に食わねェが
ゼクレスの親アスバル派の連中も… 』
味方が沸き立つ中、ソードフライヤーが
そこまで喋りかけた所で…
背後の、交易所前の
「アビスストーン」が煌々と明滅し、
その場所から、まるで煙のように突然、
一人の魔族の少女が現れた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 うわっ、埃っぽいわね…!
まぁア…バ…の為、仕方……か… 』
…小声で何か呟きながら、
少女はベルトロの前まで、
不機嫌そうな顔でズンズンと歩いてくる。
『 これはこれは!
お待ちしておりましたよォ
リンべリィお嬢様…! 』
どことなく慇懃無礼なベルトロの態度に
鼻を鳴らしながら、彼の鼻先に
勢い良く人差し指を突きつけ、
華奢な体に似合わぬ良く通る甲高い声で
リンベリィと呼ばれた少女は怒鳴った。
『 まったく!アンタ達が
ふがいないからっ!
べラストルの名の元、名士達に
兵を出させてきてあげたわよっ! 』
ベルトロは、苦笑いのまま平伏する。
…事情は分からないが、
こちらは望外の援軍を得られたようだ。
少しだけ現状に、
光明が差し込んで来たようである。
~~つづく~~