【とんだ一日・後編】
友よ!今が駆け抜けるとき!!
まつかぜ氏が高らかに叫ぶ。
今、おれの目の前にはとんでもない光景が広がっている。
震える足下を必死に叱咤し、静かに眼前を見据える。
全身の勇気を奮い立たせ、おれはその雄叫びに呼応した。
★ ★ ★
大悪魔【ベリアル】を葬り去り、【まほうのせいすい】を手に、帰還を果たした我々。
だが、まつかぜ氏、アルバ女氏は、この【お土産】では不服なようだった。
アルバ女氏 「もっと、硬くて銀色のやつがいい!」
まつかぜ氏 「よし、もういっちょいくか!」
初めは冗談で言っているのかと思ったが、
どうやらお二人は本気なようだ。
さも当然のように、我々は、もう一度、大悪魔に挑むことになった。
再び、大悪魔と対峙した我々だが、
やはり特に苦戦することもなく勝利を収めることができた。
まつかぜ氏、そして、アルバ女氏姉弟は、エンターテイナーとしての技量だけでなく、冒険者としての実力も相当なものだった。
しかし、勝てて良かった。
【お土産】こそまた、銀貨やせいすいであったが、どうにか面目は保てたようだ。
おれは、生還できただけで大満足だった。
しかしー・・・
迷宮で得た【福引き券】を握りしめて、
コンシェルジュの【ズワルド】氏の元に向かったアルバ女氏が、とんでもないことをのたまった。
アルバ女氏 「なんか、金色の玉がー・・・」
ザラ 「なんと!!?」
まつかぜ氏 「・・・悪霊?」
★ ★ ★
★ ★ ★
今、目の前にある光景・・・。
赤の巨人 アトラス
紫煙の魔神 バズズ
そして先ほどの ビタm…ベリアル
その、三柱の【大悪魔】達が、
【同時】に、同じ空間にたたずんでいた。
陸亀旅段はかつて、バズズ、アトラス、それも単体に、こっぴどくのされた苦い経験がある。
それを、三体同時に・・・だと;
まつかぜ氏は、この面子なら、勝てなくはない、と豪語していたが、
おれには全く、自分達が勝利しているビジョンが見えてこない。
即席のパーティー。
かつて無い強敵。
そして、コインボス素人の存在(おれだけど;)。
快くコインを提供してくれたアルバ女氏には申し訳ないが、
ハッキリ言って、10数万Gを、ドブに捨てるようなものではないか、と思えてならない。
それでもー・・・
例え敗れるとしても、これほどに貴重な戦闘経験はない。
せめて、一分一秒でも生き残って、この戦いから何か学び取ってやる。
どうにかこうにか理由を付けて、何とかおれも腹をくくった。
写真撮影(バズズしか見えないので撮り甲斐がない)を終え、
アルバ女氏が、【お守り】と称して渡してくれた、
【とこなつココナッツ】をかっくらう。
皆の覚悟と準備が整ったのを確認して、
我らが【スーパースター】は高らかに叫んだ。
友よ!今が駆け抜けるとき!!
★ ★ ★
★ ★ ★
戦いは終わった。
辺りに見えるのは、疲れ果てた仲間達。
そして、壮絶な戦いの跡。
そこに、大悪魔達の姿はなかった。
そう、我々は、勝利したのだ。
学び取る、と、えらそうに決意した割に、
僧侶として参戦したおれは、回復に忙殺されて、戦闘中のことは、実は良く覚えていない。
ただ、シオン氏の、虎の爪のごとき一撃。
メイン僧侶、アルバ女氏の、的確なヒーリング。
そして、スーパースターまつかぜ氏の、
頼りがいのある【ボディーガード】達と、
強烈な睡眠呪文が冴えわたっていたのだけは、しかと目に焼けつけておいた。
(パスタ、文章にするとすごい地味ですな;)
不本意ながら、授与された、
【血と汗と涙の水瓶×3】、そして、
【悪霊の神スレイヤー】の称号。
陸亀旅団が、いつの日にか彼らの高みにたどり着ける日を信じ、
おれはこの称号を、その日まで封印することを心に誓ったのだった。
~~~FIN~~~