『 つ、着いたのか…うっぷ…
『 死ぬかと思ったー!
『 あんなイカダで嵐の海に出るとは…
アストルティアの奴は皆阿呆なのかよ…
知り合いのあらくれ、バルバトスの操る、
トラシュカ航路用の船…巨大なイカダと言うべきか…に乗り、嵐の海域に乗り込んだ我々。
止まない嵐、大シケに
イカダは想像を絶する程に揺れ、
船酔いどころか、まず命の危険を感じる程だった。
イカダと自分達を守るため、
てんやわんやの大騒ぎをしている間に
何やら美しい歌声が聞こえたような、
イカダが大きな泡に包まれて、海の中へと
沈んで行ったような気もするが…
すべては、極度のパニックと船酔いが見せた
幻覚だったのかもしれない。
ともかく、気が付いた時には、我々の乗るイカダは、謎の桟橋にいざなわれていたのだった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
たどり着いた場所は一見、簡素な村に見えたが、
この異様な雰囲気の空を見れば
ここがウェナの島で無い事は一目瞭然。
おそらく、件の『心域』で間違いないはずだ。
まあ何処にせよ、地面が揺れないと言うだけで
ありがたい。母なる大地万歳。
酔いによる眩暈と吐き気を抑えながら、
いそいそと戦闘用の装備を整える。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 うわみどっ!ザラさんすごい緑!
ヨロイもみどいんだ!
『 色はともかく、随分重装じゃねえか。
『 前のキラーシーカーで懲りたからな。
心域では何が出るか分からんから、
本気の装備だ…う、うっぷ…
お前自身が本気で弱ってんじゃねぇか、
とのツキモリのツッコミを受けながら、
我々はぼちぼち、周囲の探索を始めた。
☆ ☆ ☆
『 えっ…うそ、人が居る?
驚くべき事に、村には普通に住民が居た。
が…話しかけても、まともに会話が成立しない。
おそらくは、彼らもこの心域の一部…
三闘士の心域で見たキラーシーカーと同じように、
悪神の記憶と心象が創り出した
影法師に近い存在なのだろう。
だが、そんな彼らからも、しっかりと
情報は得られた。
この空間を創ったのが、
『コルレーン』と呼ばれる国の女王、
【 リナーシェ 】と呼ばれる人物であった事。
リナーシェが、類い稀なる
『歌』の力を持っていた事。
そして、土地の貧しかった昔日のウェナを
二分して争っていたコルレーンと…
『ジュレド王国』と呼ばれた二国の
和平・終戦を、その歌の力によって実現させ、
600年前、ウェナ諸島を見事、統一へと導いた事。
まさに『英雄』と呼ばれるに相応しい功績である。
『 歌うだけで、枯れかけの畑に
作物が実りやがった…!?
『 ど、どう言う原理だ…?
リナーシェの記憶の残滓に触れ、
戸惑う おれとツキモリに
『育みの歌』は、水に作用するのだ、と
エスタータは感動したように語る。
『 すごい…すごいよ!
リナーシェはきっと…
【始原の歌姫】なんだ!
『 始原の歌姫…ヴェリナード建国の祖、
と言う人物か!
ヴェリナード絡みの古い文献にのみ語られる、
始原の歌姫の伝説。
多くの資料は300年前の戦火で失われたとされ、
現代では彼女の名前すら
明らかになっていなかったはず。
『 ね、もっといろんな所を探索してみよう!
『 いや…待て。
エスタータが興奮するのは頷けるが、しかし。
辺りを見渡していて、おれはとある発見を
してしまっていた。
『 向こうの海岸を見てくれ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ん?…船? 』
『 ジョリーロジャー…ドクロの旗が付いてる。
海賊船だ、たぶん。
停泊中の海賊船に、目を凝らす。
様式も現代っぽいし、
心域特有の、妙な違和感も感じない。
リナーシェの記憶から
生まれた物では無さそうだ。
これが意味する事はつまり…
『 ち、先客がいたって事か。
『 ああ、それもかなり厄介そうな奴等がな。
『 えー!
エスタータの、不満そうな声が
幻影のコルレーンにこだました。
~つづく~