『 よっし!じゃあさ…
退治しよう、海賊。
全員ふんじばってさ、突き出すの。
魔法戦士団に!
…悪神リナーシェの心域にて。
海賊船を発見して、しばらくうなだれていた
エスタータだったが…
急に自分の頬を両手で叩いて
気合いを入れたかと思うと、拳を握り締めて、
とんでもない事を宣いはじめた。
『 なっ…!
バカ言うな。おれら3人しかいないんだぞ。
相手の規模も実力も分からんし…
ここは一度引き返して、出直すべきだ。
んで、あわよくば魔法戦士団に通報な。
すかさず横槍を入れるも、
吟遊詩人は予想通り不満をあらわにする。
『 えー!ここまで来て帰れないよ!
また来られるかどうかも分かんないし!
何とかなるって!冒険者でしょ!
だか、今回ばかりは譲れない。
おれの判断一つが、
皆の命運を分けるかもしれないのだ。
『 冒険者って家業はな、自分の力量を
過信した奴から死んでくんだ。
君の気持ちは分かるが…
もし奴等と接触するとしたら危険すぎる。
下手な魔物よりも、悪意ある人間のが
厄介なもんだぜ。
君なんか、海賊にとっ捕まったら
どっかに売り飛ばされちまうぞ、と
脅しをかけると、ようやくエスタータは
少したじろいだ。
彼女は助け舟を求めてツキモリを見る。
ツキモリは無表情のまま、
指先に炎を灯して呟いた。
『 やりようはあるぜ?
…『魔族の流儀』でいいんならな。
『 うっ…
『 そう言う物騒なのも、
なるべく無しにしてくれよ…
頭を押さえて、ため息を吐く。
これではどちらが海賊だか…
動揺する おれ達を見て、
ツキモリは つまらなさそうに
舌打ちをした。
…そんなこんなで。再びうなだれるエスタータを
なだめすかそうと、言葉を探していた時だった。
彼女が急に、ハッと顔を上げる。
『 ね、何か聞こえない…?
特に何も聞こえないが…
おれはツキモリと顔を見合わせた。
『 何か聞こえるか?
『 いや…
『 かすかにだけど聞こえるって!
これは…歌声…かな?
吟遊詩人は、何かにいざなわれるように、
歌声が聞こえると言う方向にふらふらと歩き出す。
『 あ、待てって!
おれの制止の声も、うわの空で
どうやら届いていないようだ。
何やら様子がおかしい気がする。
慌てて彼女を追いかけようとしたその時。
『 おい鬼!気をつけろ!
ツキモリが警戒の声を上げる。
『 ん!?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
急に目の前の空間が揺らいだと思えば、
そこから巨大魚のゾンビのような魔物が現れた!
しかも、原理は分からないが
宙に浮いているではないか。
『 うわあ何だコイツ!
何処からわいて出やがった!?
『 冥府を たゆたってると言う幽魚だ!
魔界でも滅多に見かけねえ。
こんなモンを心に飼ってるっていう
英雄サマの闇が知れるな!
…不意を突かれはしたが、
幸いな事に、幽魚はそれ程強力な魔物ではなかった。ものの数分で戦闘は片付く。
だが…
…我に返ってエスタータの背中を探すも、
彼女の姿はもうすでに
どこにも見当たらなかったのだった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 畜生、おれのミスだ!
どうする、ヤバい、ヤバいぞ…
あの子、大して戦えないのに…!
ただでさえ得体の知れないこの空間に、
魔物はいる、海賊は来ている…
早く見つけないと最悪、命に…!
『 落ち付け、馬鹿鬼。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
ツキモリが、いつもの調子で気だるそうに
つぶやく。
『 あいつは確かにクソ雑魚ナメクジだが…
わりと頭は回るし、行動力もある。
そして何より…肝が据わってる。
迷子のガキじゃねんだ。
テメェの身くらい、どうにか守れるさ。
僕達が焦ってちゃ、
見つかるもんも見つからねぇよ。
『 お前…
そうか、そうだな…!
何事にも無関心っぽかったツキモリだが…
ああ見えて、わりと人をよく見ているのだな、と
こんな時だが関心した。
『 さすが、歳の甲の貫禄だな。
『 こんな時だけ年寄り扱いすんな。
ともあれ、彼女はまだ、遠くには行ってないはずだ。色々厄介事に巻きこまれる前に、
さっさと見つけ出さねば。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 よっしゃ、急ぐぞ!
そうと決まれば善は急げ。
おれはとにかく全力で走り出した。
『 お前…人の話聞いてたかーッ!?
そして、背に受けるツキモリの呆れ声が
徐々に遠ざかってゆくのだった。
~つづく~