海賊達の間に動揺が走る。
もしかしたら、思っていたよりも
奴らは戦い慣れていないのかもしれない。
このまま恐慌状態に陥ってくれれば、
付け入る隙も生まれるか?
ならば『使い時』は今…!
( 鉄壁の進軍ッ!
おれは再び全力疾走し、
奴らと数歩の距離まで詰めると、
大きく跳躍して長剣を大上段に振りかぶった。
まず狙うは…大砲!
そのまま落下を鎧の重さに任せ、気合いの声と
渾身の力を込めて、剣を振り抜く!
『 ぎぃやああ!
た、たた大砲が!真っ二つにィィ!?
『 大砲を!?斬りやがったァァ!
狙い通り。
おれが大砲を叩き切る様子を目の当たりした
海賊達は、大パニックに陥った。
『 馬鹿、野郎ども!
狼狽えてんじゃねェ!
船長が一人、場の収拾を図ろうとするが、
そんな暇を与えるワケにはいかない!
今、勢いで押し切れなければ…
屍を晒すのは、無勢のおれだ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
だが…
( どうする?
腐っても、相手は人だ。魔物じゃない。
一瞬の躊躇。
結局おれは剣を鞘に納め、その鞘に雷光を纏わせた。
『 ギガ…スラッシュ!
会心の一撃。
閃く雷鳴は、パニックで無防備な海賊子分達を、
蜘蛛の子を散らすがごとく、
まとめて四方に吹き飛ばす!
手荒い一撃だが、命までは奪っていないはずだ。
あとは、奴らが立て直して来る前に
頭を押さえる事ができれば…
( この場を制圧できるかもしれない。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 馬鹿野郎どもが…
船長は、手で顔を覆って舌打ちした後、
大振りの短剣を抜き放つ。
こちらの攻撃範囲からいち早く逃れていたか、
どうやら無傷のようだ。
やはり、一筋縄ではいかないか。
『 手加減かァ?
舐め腐りやがって。
『 ふん縛って突き出すと
言ったろう。
『 『それ』でテメェが死んでちゃ
世話ねェぞチョロ甘野郎ッ!
船長は、そう吐き捨てると、
風のように素早くこちらとの距離を詰めて、
音も無く短剣を振り抜いた。
手練れだ。流石に鞘付きじゃ戦えない。
剣戟!刃と刃が火花を散らす。
『 死なねえよ!
余計なお世話だ!
守りたいものを守り、自分もしぶとく生き残る。
それが、我が騎士の道。
気圧されぬよう、おれは気合いの声で応じた。
相手の剣筋を見極めるべく、
そのまま数合打ち合う。
やはりこの男、伊達ではない。
荒くれ達を束ねるだけの事はある。
太刀筋は変幻自在で読み辛く、何より速い。
純粋な剣の試合をすれば、勝てないかもしれない。
だが…戦いには、相性と言うものがある。
『 ちっ!スクルト掛けたカニのように
硬ってェ野郎だ!
『 それが取り柄でな!
何も相手の刃を剣で受ける必要はない。
おれには、この重鎧の装甲がある。
短剣の刃や、毒の類は鎧を通せないし、
鎧の継ぎ目や急所を守る戦い方なら、
こちらはお手のものだ。
奴のように、
巧みな技や速さで敵を翻弄するタイプには、
おれのような相手は相当にやり辛いはず。
リーチや一撃の重さならこちらが上。
多少の腕の差を考慮しても、
分があるのはおれの方だ!
とか思っていたのだが…
実際はそうそう上手くはいかないもので…
( 攻撃が…当たらねえ!?
こちらの剣はことごとく止められ、
いなされ、時には身を翻して器用に避けられるのだ。あまり戦いに時間をかけられないという事も
相まって、おれには焦りが生まれ始める。
そんなこちらの心理を見透かしてか、
船長は不敵に笑う。
『 へ、どうした騎士サマよォ…!
そんな お行儀の良い剣技じゃ、
この俺にゃ百年経っても…
だが奴の言葉は、それ以上続かなかった。
何故なら…
奴の腹に、我が鉄靴が見事に埋まったからだ。
盾で相手の視界を塞ぎつつの、前蹴りである。
『 ぐ、グホッ…!
て、テメェ…!!
船長は腹を押さえ、苦悶の表情で
よろよろと後ずさる。
『 悪いが騎士は早くに廃業してな!
言った通り、今は しがない冒険者さ。
お行儀作法なんて忘れちまったよ。
奴の言葉で脳裏に蘇る。
鉄壁の進軍、その真髄。
そうだ、おれの武器は剣だけじゃ無い。
鎧を着込んだこの全身が、生きる意思そのものが。
比類なき武器となる。
( この機を逃すな!畳み掛ける!
~つづく~