『 じょーだん!冗談だって!
つい職業病が……くっ
…野郎どもの、敵味方の垣根を越えた
見事なハーモニーに驚いたか、
エスタータは不自然な笑顔で場を
取り繕おうとするが…
( おい、『くっ』て言ったぞ。
( 言ったな。
( 今、『くっ』、て。
野郎どもは案外、めざとかった。
『 と、とにかくっ!!
吟遊詩人は赤面して天井を見上げ、
大きな声をあげる。
そしてしばらくして正面を向き直すと、
一転して、真面目な顔つきになった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 リナーシェの事。
調べ歩いて思ったんだ。
心域は…この空間は…
英雄の、誰にも見せたく無かった、
心の弱い部分と…
でも、本当は、そんな弱さを
『誰か』に気付いて欲しかったんだ、
ていう魂の叫び…
そんな相反するキモチが創り上げてしまった
悲しい世界だったのかな、て。
だから…
…エスタータは、静かに拳を握り締める。
『 あんた達、荒くれが…
ううん、あたし達冒険者、全員が!
きっと、土足で入り込んで、
バカ騒ぎしていい場所じゃぁ…
無かったんだよ…!
場が、しん、と静まり返った。
なるほど。故に彼女は怒り、
それを場の全員に手っ取り早く理解させる為に
謳ったと言うワケか。
確かに…少し考えれば分かる事だ。
悪神ならともかく、正気の英雄が…
己の、魂の慟哭が生み出した、この歪な空間に。
誰かを招きたいとは決して思うまい。
…おれも『荒くれ』と一括りにされてるのは
不本意ではあるが…
あの粉砕された柱とかを見たらまあ、
ぐうの音も出せんか。
周りを見ると海賊達もバツが悪そうにしていた。
サマーウルフなど、主人に怒られた飼い犬の様に
切なく鼻を鳴らしている。
戦う力を持たない一人の少女がこの場を征するとは。本当に…大した子だ。
隣のゲンも、苦笑いしながら
くっくと喉を鳴らす。
『 分かったよ、嬢ちゃん。
俺等の負けだ!
ここから出て行くし、
金輪際、近寄らねェと約束する。
…それで勘弁してくれや。
ゲンの潔い提案。
エスタータとツキモリが、
すかさずこちらに懐疑の目を向けた。
『 信用して良いと思う。
善人じゃあないが…
大の男が、ここで約束は破らんさ。
だろ?
『 おおー、心の友よ、俺の事
分かってきてるねェ!
こちらの意見を、
ゲンはすかさず茶化してくる。
うるせえし。命のやり取りしかしてねえし。
『 おけ。じゃあいいよ!
ここに置いてけないし…
町までしょっぴいてくのメンドイしね。
『 結局、面倒いんじゃねえか…
エスタータは、奴らの解放をあっさり認めた。
ツキモリも、特に異論はなさそうだ。
『 ありがてェ、よっしゃ!
ゲンは礼を言うと、真空呪文を器用に使って、
瞬く間に自分と子分達の拘束を解いた。
まったく…こちらの判断がどうあれ
逃げ出す算段はあった訳だ。
律儀に許しを乞うたのは、奴なりの
敬意だったのだろうか。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 じゃあ俺等は ずらかるが…
礼に一つ教えてやるよ。
始原の歌姫の物語は…
彼女の死、そこで終わらねェ。
ゲンはおもむろに語り出す。
おれ達は顔を見合わせた。
『 例えば…ヴェリナードの初代の王は
ヴィゴレーじゃねェ。
『 ええっ!?
『 リナーシェ殺しの犯人に
仕立て上げられたヴィゴレーの弟、
王弟カルーモを、
歌姫の妹アリアが助けて、真相を究明。
結果ヴィゴレーは処断され、
その二人が王位に就いたのさ。
アリアを甘く見ていたか、あるいは…
ま、ヤボな話か。
…それを知っていれば、歌姫も化けて出る事は
無かったかもな、と、ゲンは鼻を鳴らす。
『 随分と詳しいな?
『 まあな。何せ俺はヴィゴレー本人と、
奴と親しい奴らにも会った事があるからな。
もっとも…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
…亡霊だがな、と、ゲンは続けた。
『 ヴィゴレーは、海賊の俺から見ても
救えねェ悪党さ。
…でもな。
亡霊になってからも…600年。
今でも後生大事に持ってたぜ。
テメェで殺した女に…
贈った『指輪』をな。
『 ええーっ!なんで!?
エスタータの驚きの声に、
『嬢ちゃんにオトナの恋歌はまだ早いか』と
ゲンは笑う。
『 俺はこの物語を完成させる為に
ここを訪れたのさ。
嬢ちゃんのお陰で、手間が省けたぜ。
ありがとよ。
~つづく~