『 じゃあ行くとするぜ。
ザラたん!今度決着つけようや!
『 やだね。剣が幾つあっても足りねえよ。
…ゲンは子分達を引き連れて、
豪快に笑いながら去って行った。
台風一過。
心域の王城に残るは、これで
おれ達3人だけとなった。
『 一時はどうなる事かと思ったが…
なんとか丸く収まったなあ。
やるじゃないか、とエスタータを誉めると、
彼女は何故か少し、戸惑った笑みを浮かべた。
『 単独行動を叱ってやるつもりでいたんだが…
ツキモリの言った通り、
おれが少し、過保護だったのかもしれんな。
これじゃ、ハクオウやリナーシェの事を
言えんなあ。はは…!
『 で、でしょ!えっへへ…
あたしだって、やる時はやるんだから…
『 いいや。今回は…鬼。お前が正しかった。
エスタータの言葉を食い気味に遮って、
ツキモリがため息を吐く。
『 こいつ…目の前の事に集中したら、
周りが一切見えなくなるタイプだ。
僕が早々に見付けてやったから良かったものの… そうでなけりゃ、今頃とっくに
幽魚の腹の中だぜ…?
『 おいおい…そうなのか?
( ちょっとツキモリ!
しっ!しいぃーっ!
なるほど。
失踪の際、少し様子がおかしく見えたのは…
単純にそういう事だったか。
まったく、やれやれだ。
『 今頃、幽魚の胃液で
骨までドロッドロになってる頃だぜ…?
『 ちょ、生々しい!表現が生々しいから!!
『 ぷっ…ははは!
二人のいつものやり取りに、つい吹き出してしまう。
『 ま、みんな無事だ。
今回は…良しとしようか!
エスタータは照れ笑いで頭を掻く。
ツキモリは舌打ちして鼻を鳴らすが…
別段、機嫌が悪いわけでも無さそうだ。
『 …帰ろうか。おれ達も。
『 …だね!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
帰途。
嵐の海域をどうにか抜けて、
ジュレー島の影も見え始めた頃…
イカダの端っこで一人へばっていると、
エスタータが、何やら唸りながら
近づいてきた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 うっぷ…どうした?
気分悪いのか?背中さするか…?
それはさっきのザラさんでしょ、と
早速のツッコミを頂く。
先ほど何があったかは語るまい。
『 わかんないなあ、と思って。
『 わかんない?
『 ヴィゴレーの気持ち、だよ。
あたしにはよくわかんない。
…珍しく難しい顔をしてると思ったら、
さっきからそれを考えていたのか。
『 そうさなあ…
想像でしかないが。
おれは上体を起こすと、後ろ手に頭を掻いた。
『 ヴィゴレーは…リナーシェを愛し…
いや…彼女に恋をしていたと言うべきか。
『 だよね。指輪!ずっと持ってたもんね。
『 でもな…人にゃ『立場』ってもんがある。
ましてや、ヴィゴレーは王様だろう?
ジュレド王の目線でリナーシェを見たら…
国にとって彼女がいかに怪しく、
危険な存在だったか…分かるよな?
…仇敵が、絶対的なチカラをチラつかせながら、
対等な和平をしよう、と笑顔で擦り寄って来る。
いっそ弟の様に、救世主だ、神の使いだ、と
彼女を崇められれば楽だったのかもだが…
生憎ヴィゴレーは為政者だ。
リナーシェの思惑がどうあれ、
軽率な判断で、国を危険に晒す真似は出来まい。
しかし…個人同士で見るならば。
リナーシェとヴィゴレーは、立場も境遇も…
人との接し方等にも、意外と共通点は多い。
お互いに『仮面』を取って、
もし腹を割って話し合う事ができたなら。
二人は最高の理解者になれた。
…そんな未来もあったはずだ。
『 きっとリナーシェは、
ヴィゴレーという一人のウェディが
最も待ち望んでいた存在で…
でも、野心持つ為政者としての仮面を着けた
ヴィゴレーにとっては、最も邪魔な存在だった。
彼は多分、悩んで悩んで…
結局、リナーシェを排除して
血塗られた道を往く事を選んだんだ。
…他にも道はあったろうにな…
殺される方はたまったもんじゃ無い。
『 うーん…でもさ。
エスタータは、まだ納得できない様子である。
『 一番わかんないのは、
リナーシェの最期のときだよ。
殺すにしたって、好きだったんならさ…
死にゆく好きな人に、
あそこまで貶めるような言い方を
しなくても良くない?
『 ううむ…それな。
…男の意地?いや…
腕を組んで空を見上げ、
非道の王に思いを馳せる。
……
『 もしかしたら…演技だったのかもな。
『 えっ!?
~つづく~