一仕事終えた冒険者たちで、酒場通りが賑わう。
いつもの風景。
日は落ちても賑やかな、ここはレンドア島の港町。
立ち並ぶ酒場の一軒に、おれ達も立ち寄っていた。
『 何はともあれまずは…
お疲れ様、だな!
3つのグラスが澄んだ音を響かせる。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 案の定、天星郷への手掛かり、
掴めなかったじゃねぇか…
ツキモリの呆れ声。
天使の『ての字』も見つからなかったね、と
エスタータが笑う。
そう…ジュレットを最後に、おれ達は
エックスさんの足取りを完全に見失い…
結局ここ、レンドア島に戻って来たのだ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 でもさ。色んな冒険できたし。
詩のネタだって幾つかできたし、
あたしは満足かな。
ツキモリだってさ、できたでしょ。
アストルティア見聞!
言い終わるが早いか、エスタータが、
運ばれて来た料理に歓声を上げる。
『 まあな…地上は魔界以上に
変人だらけってのが分かってきたぜ。
変態はお前らだけじゃ無かったんだな…
『 はは、ひどい言われ様だ。
ツキモリも、特に不満があるワケではないらしい。
口角を少し上げて、果実酒のグラスを傾けている。
彼らにとって有意義な旅になったのなら、
おれも ありがたいと言うものだ。
『 しかし、詩のネタ、か…
今なら、例のリナーシェの詩を謳えば
客が取れるんじゃないか?
グラスを傾けながら、
何となくエスタータに聞いてみる。
始原の歌姫の伝説は、世間ではまだまだ
珍しいはずた。
しかし…彼女は少し複雑な顔をした。
『 ん~…
リナーシェの詩はね…
一回、封印する。
『 ほう?
『 各地の英雄譚を調べて、纏めあげて…
そんで、とびきりの詩にして。
それを世界中で謳い歩く!
それがあたしの夢だったんだけど…
でも気づいたんだ、今回の旅で。
英雄の軌跡だけを…目線だけを追いかけてても… きっとあたしは、本当にあたしの謳いたい
『とびきりの詩』を紡げないんだ、て。
彼女は、難しい顔を作って腕を組む。
『 それに…例えば、ザラさんはこないだ
ヴィゴレーを語ったけど…
彼の心、覗いたワケじゃないでしょ。
散りばめられた情報のカケラを集めて
ヴィゴレーと言う人物に思いを馳せて…
ザラさんなりのヴィゴレーの物語を
作り上げたんだ。
それは歴史の真実とは
違うのかもしんないけどさ…でも…
大事だと思うの、なんかそう言うの!
うーん…上手く言えないんだけど…!
難しい顔のまま、
拳を振りかざして力説するエスタータ。
『 大丈夫、言いたい事は何となく伝わったよ。
なるほどな。
『とびきりの詩』、か!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
言葉の響きと彼女の情熱に
冒険魂が刺激され、
いつの間にか、おれは笑顔になっていた。
『 うん。だから…
心域での事はいったん忘れる。
もっと冒険して!視野を広げて…!
いつの日か…あたしなりの。あたしだけの!
…リナーシェの詩ができるまで。
『 そうか。そりゃあ…
是非聴いてみたいもんだな!
エスタータは、白い歯を見せて
勢い良く拳を突き上げた。
『 まかせてよ!
いつか売れっ子になったら、
ザラさんとツキモリ、
サバの味噌煮食い放題にしてあげるからね!
『 お前…僕を馬鹿にしてるだろ…
( よだれ…
( よだれが…
…今回の旅で創ったエスタータの新作…
エルトナのラクゴの要素を取り入れたコメディ
『ヤマカミヌの鞘師』
既存のイメージに挑戦する
『三闘士のゆかいな旅』
ちょっと不本意だが…
間抜けな騎士が、船酔いしたまま単身で
海賊のアジトに乗り込む
『いのししパラディン』は…
後の彼女の路銀の足しに、
少しだけなったとかならなかったとか。
ま、かくして。
天星郷には行き損ねたが…
おれ達は、おれ達なりの冒険を…って…
『 なんだ!このエビチリとか言う
料理はッ!
ピリピリでぷりぷりではないか!
聖・エビプリプリエルではないか!
ん!?隣のテーブルから響く
このノリ…いや、この声は…!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 あんた…天使の…おっさん?
『 んお?
貴様……ザラか!?
……
『『 この再会は運命だッ!! 』』
二人のおっさんの響き合う叫びは、
幸いにも酒場の喧騒に溶けてかき消された。
『『 えっ? 』』
~つづく~