地面を見る。
寸分の狂い無く敷き詰められた、石畳の広場。
その中心にはー…
大剣を携え、純白の衣纏い、頭上に光輪を戴く
天使の女性らしきモザイク画が描かれている。
名のある人物がモチーフになっているのだろうか?
( ん?光輪……?
まあ、いいか。
地面から目を離し、
改めて正面を見据える。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
満天の星空の下。
整然と組まれた石段の参道。
それを囲うように立ち並んでいる無数の大理石の柱と煌々たる炎をたたえる巨大な聖火台たち。
どれ一つ取っても、アストルティアに存在する
どの宮殿、どの聖堂よりも豪奢にして荘厳に見える。
彼方まで続く参道の、その先にある巨門が。
まるで無言の圧でもって
我々を見定めているように感じて、思わず
おれは顔を引き締めた。
…ここが、天星郷。
( 『神都』…
フォーリオン…!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ザラよ。単刀直入に問おう。
我らが郷、フォーリオンに来る気はないか。
再会も束の間。
藪から棒に、おっさんは問いかけてきた。
『 そりゃおれ達にとっても
正直、渡りに船ってやつなんだが…
一体どう言う風の吹き回しなんだい?
問いで返すと、おっさんは遠い目をして
エビチリを一尾頬張る。ついでに…
一個ちょうだいと笑いかける吟遊詩人を、
彼は『ダメじゃ、自分で頼め!』と、
全力で怒鳴りつけてビックリさせていた。
エスタータもエスタータだが…
まあ相変わらず、ブレないおっさんだ。
『 …うおっほん!
実はな…以前貴様と会った後、
貴様に正体をバラして色々と喋った事が
お上にバレてしまってなあ。
おかげでワシゃあ、『罪付き』の身よ。
だが…あれこれあって、
状況が変わってな。
簡単に言えば…天星郷は今、
人手が足りなくなっているのだよ。
『 そいつはもしかして…
悪神とかが関係してたりするのかい?
『 むお!?貴様、ある程度の事情は
知っているようだな?
ならば話は早い、と、
おっさんは手をポンと打った。
『 そうだ。その悪神どもへの対処の為…
戦務課の精鋭達が出払ってしまっていてな。
それで大魔王…うぉっほん!
いや今代の英雄、エックス殿の進言もあって、
『原世庫のログ回収』や、
『咎人』と呼ばれる…
まぁ…特殊な魔物達の力の抑制を、
ある程度腕の立つ地上人の冒険者達に
頼んではどうかと言う話になり…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 その件について、
『天使長』の承認も下りた。
そこで…汚名返上の名目の元、
地上人とコンタクト経験のあるワシも
スカウト役の一人として
地上に遣わされたと言うわけだ。
だが…
この町の冒険者達は、誰一人として
ワシの話を信じようとしなかったのだ。
…それどころか不審者扱いよ、と
おっさんはうなだれる。うむ、耳が痛い。
『 それで途方に暮れながら
エビチリを食していた所…
運命的に貴様が現れた、と言う訳だ。
『 途方に暮れてるようには
全く見えなかったぞ。
( しいっ!
腕を組んで鼻を鳴らすツキモリを、
エスタータが慌てて諌める。
『 なるほどね。
ゲンセイコ?とかやらの事は良く分からんが、
要は『探索』と『バトル』だろう?
それなら確かに、おれ達の領分かもな。
なんか迷惑かけたようだし…
おけい、その話乗ろうじゃないか!
『 おお、本当かッ!?
『 但し…一つだけ頼みがあるんだけど…
…ツキモリと、戦えない吟遊詩人の
天星郷滞在、見学の許可も忘れずに持ちかける。
そのくらいなら、と、
おっさんも首を縦に振ってくれた。
『 ようし、契約成立だな!
では補欠の補欠英雄ザラよ!
ワシが今日から…
貴様の『導きの天使』になってやる!
『 はは、おれは補欠の補欠、か…!
かくして、補欠の補欠英雄と
落ちこぼれ天使は、
固い握手を交わす事になったのである。
『 別に落ちこぼれてないわーいッ!!
『 あっハイ…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 うっへえ…
高っけえ…コエー……!
『 おいさっさと歩け、鬼。
原世庫とやらに着く前に夜が明けるぞ。
そして始まる、新しい冒険。
まだまだ分からない事だらけではあるが…
少しずつ、慣れていくしかない、か。
『 おいやめろ…お、押すな!
『 あはは…前途多難、だねー
吟遊詩人が、苦笑しながら
ハープの弦を三つ、爪弾いた。
~ 空を目指して、了 ~