( まだだ、焦るな…!
14…15…16…!
『 来るッ!
死闘、深淵の檻。
戦場の床に円陣が浮かび上がると共に、
その陣から凄まじいエネルギーが放射される!
【 サークルカラミティ 】と呼ばれる、
ルベランギスの切り札の一つだ。
しかし おれ達は、慌てる事なく
陣の隙間の、いわゆる安全地帯へと素早く退避して
難を逃れた。
そう。
奴の仕掛ける床トラップには、
明確な『法則性』があり…
そして奴自身にも、幾つかの行動の『癖』がある。
『 来るぞ、八門!
凌いだら床に気を付けつつ→
集合して分散する災禍を受けたら→
直ぐに散開してジャッジに備える!→
再び床注意!→本体はツメで来る!
スクルトを受けてる今なら、
体力を回復すれば耐えられるはず!
皆、ベホマラーの届く位置に…!
…それらを気に留めながら苛烈な戦闘に身を置くのははっきり言って我々には至難の業だったのだが…
まあ要は『 慣れ 』だ。
天才ならざる我が身においては、
結局モノを言うのはいつも、場数と経験である。
( 見えて来た…!
床の光る間隔…そして安全地帯!
相当な強敵だが、
決して勝てない相手じゃあ…!
無いッッ!!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
独妙点穴、常闇の槍が閃く!
光る床をかい潜りつつ、
愛槍と我が身を弾丸と化した渾身の一閃突きが、
ついに奴の身体を貫いたのだった。
『 いよっしゃあ!
…ルベランギスはまるで幻影の様にかき消え、
奴の立っていた場所には、一つの
『真っ赤な果物のような物体』が転がっていた。
どうやらこれで『チカラを削ぐ』事には
成功したらしい。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
謎の果物は、
レクスルクス内に居る、変わった色の
ドラゴスライムが手早く回収に来た。
アレを、『厭悪の果実』と、そう呼んでいたが…
咎人達の記録については、すでに失伝されている
物が多いらしく、詳しい事は分からなかった。
( 果実、ねえ。
果実と言えば…パニガルムのログで見た
旧世界の記録にある、
『 女神の果実 』の事を思い出す。
人々の『感謝のオーラ』を受けた世界樹が
実らせる物で、手にした者の願いを叶える力を
持つ至宝と言うが…
だが、ひとたび純心ならざる者が手にすれば、
その願いは捻じ曲げられ、
その者の心身を異形に変えるのだと言う。
( 咎人、か…
天に仇なす強大な存在とは言え、
ただの魔物に『咎人』などと名付けるだろうか?
その呼び方は、そう、まるで…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 罪付き 』と呼ばれる
天使達を思いおこさせる。
罪付きとは、天使の間で禁忌とされている事…
例えば、地上の争いに介入したり、
地上人に度を越して手を貸したり…等。
それらを破った破戒者に貼られるレッテルである。
罪付きとなった者は、
生を全うするまでの間にその罪を払拭できなければ、『転生』を禁じられるという罰を受けるのだという。
…子を成さず、転生する事で命を循環させる
天使達においてそれは、
種の存続自体を揺るがし兼ねない程の罰に見えるが…逆に言えば、それほどの禁忌と言う事なのだろう。
我々地上の民が、昨今まで、天使と言う
種族自体を認識できていなかった主だった理由も
それ故、と言えるかもしれない。
事実、天使達は
彼らの盟主を失う事になった、
異界滅神との最終決戦においてすら、
沈黙を守り続けていた。
最近になって
その禁を解かれ始めてきた事の、
『意味』を考えると
末恐ろしくなってくるが…
まあ今は、そこは置いておこう。
伝承には、深紅の爪持つルベランギスは
神に愛された人を憎み…
金の角振り立てるアウルモッドは、
逆に人を深く愛した、とある。
( 元々は、魔物だったわけではないのか…?
罪付き、咎人、そして果実。
…転生を禁じられた、強大な魂は
何処へ行く?何になる…?
( いや、まさか、な…
さっきまで戦っていたルベランギスに
なんとなく思いを馳せながら、
おれはレクスルクスを後にした。
~咎人と罪付き、了~