小山ほどもある巨大な鋼の騎士が、
唸りながら拳を振りかざす!
冒険者達は冷静に頷き合い、
鉄巨兵の拳が振り下ろされると同時に
四方へと散開した。
天星郷フォーリオンが擁する、
【源世庫パニガルム】。その最奥にて。
ここに眠る膨大な量の、旧世界の『記録』の調査中、突如動き出し襲いかかってきたこの鉄巨兵。
応戦するは、神都に滞在中の
冒険者達で結成された即席の調査隊だ。
今日はおれも、その一員として参加していた。
足場が崩れないかと心配になるほどの衝撃。
地響きの中、奴の拳をかわして散開した冒険者達は
三方向から奴を取り囲んで注意を分散しつつ、
手際良く反撃の準備を整えてゆく。
僧侶の祈りが守りのヴェールを張り巡らせ、
海賊が大砲に火を入れる。
道具使いが強化の陣を敷き…
魔法戦士の放つ五色の光弾が。
レンジャーの呼び出す、神獣の顎が。
鉄巨兵の鋼の装甲に、
埒を開けんと楔を打ち込んでゆく。
『 気をつけろ、
次の攻撃が来るぞッ!
巨兵の手の平から、
無数の『光の槍』とも言うべき
巨大な光弾が生み出されてゆく。
恐ろしくも神々しいまでの光を放つ
巨槍を見て、誰かが呟いた。
『 グングニル…!
神話に語られし魔神の振るう、必中の投げ槍の名。
だが、神話の通りコレを必中させられたならば、
おれ達は全員、軽ーくお陀仏だ。
幸い、巨兵の動きはそれほど速くない。
なんとか付け入る隙はありそうだ。
その巨体、そして強大なチカラは…
元々は我々ヒトに向けられたものでは無く、
もっと強大な『何か』と戦うのを
想定されて設計されたものなのではないか?
それ故に、我々小さき者が
付け入る隙は見付け易い。
なんとなくだがそう思いつつ、
おれは全力で射線外へ走る。
『 光槍を射出中は隙だらけのようだ!
『 今です、総攻撃ーッ!!
『 うおおッ!!
増員、勢いよく武器を構える。
おれも大きく跳躍し、
装甲の継ぎ目に連続突きを放ってゆく。
程なくして。
…総勢12名の調査隊の猛攻の前に、
巨兵はひとまずではあるが、
その機能を停止させたのだった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 『ログ』の解析によれば…そいつは
『鉄巨兵ダイダルモス』。
旧世界の科学技術の粋を集めて作られた
世界防衛用の人型ロボット…
その内の一機よ。
戦い終わって。
天使のオッサンは、訳知り顔で語る。
『 はえ~、マシン系なのかアレ…
ゴーレムみたいな魔法生物なのかと思ってたよ。 凄いんだな、旧世界の技術ってヤツは。
『 まあ…駆動エネルギーの効率が悪くて、
お蔵入りになってたようだがな。
『 おいおい…計算間違いかい?
凄いんだか凄くないんだか、
旧世界の技術…
で?なんでソイツが今動いてて…
おれらが襲われにゃならんの。
『 さあなあ。パニガルムについては
ワシら天使にも解らんことが多い。
調査あるのみだな。
なんだか、
はぐらかされたように
『今後とも頼んだぞ』とだけ言われ
肩を叩かれたので、おれは唸った。
『 うーん…
ひとり腕を組んで、鉄巨兵について考える。
確かにアレは凄いロボットだが…
裏を返せば旧世界は、あんなものが必要になる程の
脅威に晒されていた、という事だろう。
旧世界を襲った脅威とは。
まあ、神話を紐解けば答えはすぐ出てくる。
( やっぱり旧世界は…
異界滅神とその眷属によって滅ぼされ…?
…突如、おれは激しく違和感を覚えた。
( いや、待て、まてよ…?
神話の終焉を踏まえて、改めて考えると…
この答えでは、かつておれが
魔界で得た情報と微妙に食い違いが生じるのだ。
何故なら、ジャゴヌバは…
『 オッさん。ちょっと質問だが…
旧世界、とこしえの揺り籠を滅ぼしたのは…
異界滅神ジャゴヌバ、で、いいんだっけ?
『 !?
天使のオッさんの眉がピクリと動いたのを、
おれは見逃さなかった。
『 やっぱり違う、のか?
『 ふ、ザラよ…貴様もまた、
魔界へと降りた冒険者だったのだな…
~つづく~