天使のおっさんは静かに語る…
『 ザラよ。旧世界【とこしえの揺り籠】を
滅ぼしたのはジャゴヌバ…
それは、まるきり間違いと言うわけでもない。
だが…『この先』を語る事は、
我ら天使の禁忌に触れる。
『 禁忌…そうか。
喋ったらまた『罪付き』になってしまうか。
名を語るのもはばかられる程の存在…
一体、何者だと言うのだろう。
まあ、おっさんに迷惑をかけてまで
聞き出すワケにもいかないか。
しかし話を切り上げようとしたら
彼は意外な事を口走った。
『 ふむ。でもまあ良いわ。
特別に教えてやろう。
『 えーーッ!?軽ッ!
いいのかよ!
『 なに、貴様ら冒険者を引き入れた時点で、
バレるのも時間の問題よ。
それにー…
今や『時代』は変わろうとしておる。
わしら天使も、大きく変わらざるを
得ん程に、な。
…そうなれば、わしも晴れて無罪放免よ、と
おっさんはニヤリと笑った。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 魔界に降りたのなら、
おそらく知っていよう。
滅神としてのジャゴヌバと
その眷属、七柱の邪神は…
【アストルティアで誕生した】のだと
言う事を。
そう。ジャゴヌバは元々、
神と呼ばれる存在では無かったのだ。
『 なんだって…?
『 心して聞くが良い。
奴の本当の名は…
【 ジア・ゴヌヴァ 】!
突如、揺り籠を襲撃してきた
星界よりの侵略者達の、
たかが一員にすぎぬ。
そして、その侵攻勢力の名が…
【 ジア・クト念晶体 】!!
我らの遠き故郷は、彼奴らによって
滅ぼされたのだ…!
『 ジア・クト……!
『 そうだ。
『 えー、燃焼…体…?
『 ……『念晶体』じゃ!
意志と思念を持つ、ヒト型の
鉱物生命体とでも言うべき種族よ。
ちなみに燃焼ボディが欲しければ、
キタエルと言う天使の所で
エクササイズするが良い。
『 お、おう…
それで…そんなにヤバい奴らだったのか、
そいつらは。
『 ヤバいなんてモノじゃないわ!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
…その後のおっさんの説明によると…
ジア・クトは、
その一個体の戦闘力を取っても凄まじい物だが、
その真の恐ろしさは、
奴らの使う兵器にあったのだと言う。
奴等の兵器が放つ謎の光に触れると、
ヒトはおろか、動植物…有機体という有機体は
結晶化…(石化?)してしまうのだそうだ。
そして、それを治す術はおそらく
『存在しない』。
( おいおい…そんなんアリかよ…
故に旧世界は、瞬く間に蹂躙されたのだと言う。
若き女神ルティアナの先導の元、
僅かな生き残りは箱舟に乗って星界に逃れた。
箱舟の名は…
『 フォーリオン 』…
まるで実感が湧かないが…
おれが今立っている、天星郷そのものだと言う事。
( 途方も無い話だ…
永き旅路の果てに辿り着いた宙域に、
女神はこの世界…アストルティアを創世し、
ジア・クトの追跡の目から逃れるために、
強大な結界を張った。
それで一安心かと思いきや…
結界が完成する前に、
アストルティアに入り込んでいたジア・クトも
僅かながらいたのだ。
その一体が、ジア・ゴヌヴァだったと言うワケだ。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
ゴヌヴァは皮肉にも、
奴を討伐するために放たれた
創生の力を吸収し、
まったく別の存在に変容する。
そして……
大いなる闇の根源、
異界滅神ジャゴヌバが誕生した。
( これが長い長い、
光と闇の戦いの始まり、か。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 そして今、女神亡きこの世界は
再び、奴等の脅威に
晒されようとしておる。
…それに対抗するため、天使達は
歴代の英雄に『神の力』を与えようとしたが…
ジア・クトに逆手に取られて
彼らは悪神になってしまった。
それが、最近巷を騒がせた悪神騒動の
真相だったらしい。
『 だが、エックス殿の活躍で悪神の浄化も進み、
残すは双子の勇者の片割れ…
レオーネのみ。
奴への警戒の為に精鋭が出払い、
人手が足りなくなったので…
『 おれら冒険者にお呼びが掛かった、と。
『 そう言うことだ。
何、浄化さえ無事終われば、
この世界の安寧は守られる。
もう一息だけ協力を頼むぞ。
だが…我々の願い虚しく、レオーネの浄化は失敗。
天星郷の空に奴等の居城、『魔眼の月』が登るのは、それから少し後の事になるのだった。
~その名ジア・クト、了~