砂の都、ファラザードの雑踏を行く。
『ネクロデアのデッドリー男爵』についての
情報を求めた、ちょっとした聞き込みを終え、
待たせていた仲間の所へ戻ると、エスタータが一人、片手を上げて出迎えてくれた。
だが、その手には何か…
『お鍋のフタ』?のような物が握られている。
『 あ、ザラさん。
どうだった?なんか分かった?
『 いやあ…今んとこ さっぱりだなあ。
一人か?ツキモリは?
『 近くに穴場のアイス屋があるから
行ってくる、って。
『 おおーアイスか、そりゃあいい。
あっついしな。
それで…そのお鍋のフタ?は何?
『 うっ…
質問した途端、エスタータは目を泳がせて、
バツが悪そうにボソボソと口籠った。
『 で、伝説の…
け、『剣王マサトメの盾』…です…。
『 ま、マサトメ…?
まさか…お買い上げ…
したの…ね?
吟遊詩人は苦い表情のままコクンと頷いた。
…一体どう言う口上でセールストークをすれば
ただの鍋蓋を伝説の盾として買わせる事が
できるのだろう。
『 剣王マサトメは盾の扱いはからっきしで…
生涯、お鍋のフタくらいしか
使わなかった、って…
『 なるほど、つまりそれは…
『 け、剣王の盾…です。
『 ……
ちなみに…
……おいくらで?
エスタータはゆっくりと、指を3本立てた。
二人で遠い目になる。
『 ツキモリには…黙っとこうぜ…
『 おなしゃっす。
『 しかし…それはそれとして。
おれは、おもむろに
後方の曲がり角に向き直った。
聞き込みをしている時から、
何やら視線を感じていたのだ。
おそらく、何者かに尾行されていたのだろう。
『 アンタも押し売りかい?
自慢じゃあないが、おれらあんまり
金持ってないぞ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ヨゥ!?
まさか気付かれるとはヨゥ!
『 わっ、ホントに何かいた!
吟遊詩人が驚きの声を上げる。
隠れる気があったのか無かったのか、
曲がり角の壁際から顔を出していたのは、
ひとつ目の道化師のような
妙な口グセの魔物だった。
『 話があるんなら聞くだけ聞くが…
おれらに何か用なのか?
『 ヨゥヨゥッ!
『ニーキュッパ』で鍋のフタを
買わされてるアホたちと話す事なんて
何もねぇヨゥッ!
『 なあッ!?
道化師の魔物は、ニヤニヤしながら
そう吐き捨てると、
脱兎のごとく走り去ってゆく。
なんだなんだ?
スリとか盗みでも狙っていたのだろうか?
ま、わざわざ追うほどの奴でも無さそうだ。
そう思ったのも束の間、
ふいに隣から怒声が聞こえてくる。
『 だーれがア・ホだーーッ!!
ふぬぅうおーーッ!!!
怒れるエスタータの腕から
気合いの声と共に放たれるは、
さっき買った、木製のお鍋のフタ。
解き放たれた鍋蓋は、ブーメランの如く、
曲がり角に沿って綺麗に弧を描いて飛び…
“ カコォォオンッ!“
『 ヨゥーーーッ!?!?
…そして程なくなくして、
乾いた音と、先程の魔物の悲鳴が
砂の街に響いたのだった。
吟遊詩人は満足げに親指を立てる。
『 ほら!役に立った。
剣王の盾。
『 お、おう…
おれは、そっとこめかみを押さえた。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 さて…まったくの成り行きだが…
折角だから話を聞かせてもらおうか。
おれ達は道化師を
とりあえず近場で人気の少ない場所に運び、
軽く尋問してみる事にした。
『 まさかこんなアホ共に
捕まるとは…一生の不覚だヨゥ…
『 ふーん。ま~だ言うかあ。
『 ヒィ!
きっちり回収して来た鍋のフタを、
道具鞄から取り出すエスタータを見て
怯える魔物。
…おれは一体、何をしてるのだろう。
本日2度目の遠い目をした、その時だった。
上空から突如、躍り出る影が見えた。
『 エスタータ!危ない下がれ!
『 えっ!わっ!?
影から放たれるのは、一筋の剣閃!!
おれは一歩踏み込んで上方に大盾を構えた。
『 ぐ!?おおおッ!!
重い金属のぶつかり合う鈍い音が響く。
辺りに衝撃波が発生する程の、
とてつもなく重い一撃。
( 味方が居たのか!それも…
道化師とは比べ物にならない程の
腕利き…!
盾を打った反動で宙返りして、
影が地に降り立つ。
どうにか斬撃をいなし切ったおれは、
影を睨みつけた。
『 ほう?今のを防ぐとは。
少しはやるじゃないか、
異邦人。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 悪いな、そいつは
俺の指示で動いてたんだ。
~つづく~