” そうか…そんな事が… ”
おれが、かつてのネクロデア領での
デッドリー男爵との出会いと、
それから派生した冒険の一部始終を語り終えると、
喋る魔剣…いやネクロデアの王子『ナジーン』は、
深い息をついた。
“ 預かり知らぬところで、
どうやら君には世話になったようだな。
私からも礼を言わせてほしい。 “
『 いやいやそんな…
おれは自分が思うまま動いただけで…!
むしろ逆に、剣だって鍛えてもらってるし!
突然あらたまって礼を言われ、
おれはだいぶ面食らった。
言い訳のように早口になるオーガを見てか、
魔王ユシュカは、くっくと笑い出す。
『 かつての男爵の領地と…
そして屋敷があった場所の地図を、
後で用意させるとしよう。
それでいいよな、ナジーン?
“ 御意に。
そこに居るとは限らないが…
私達も、他に有力な情報は
持ち合わせていないのだ。 ”
『 十分です!
すみません、こんな通りすがりに、
何から何まで…
“ 君が気にする必要はない。 “
…国は滅んでしまったが…
それでもまだ、想いや技術…
そこに『息づいていたもの』。
その全てが消えて無くなってしまった訳ではない。
…それを実感できて自分は嬉しいのだ、と、
ナジーンは続けた。
( そこに息づくもの、か…
折れた剣をぼんやりと見つめる。
おれが、こいつを振るって冒険する事もまた、
かの国が息づいている…その証の
ほんの一つにはなっていた、のだろうか?
” ファラザードの復興が落ち着いたら、
ナジーンが会いに行く、と
彼によろしく伝えておいてくれ。 ”
『 了解しました!
今は考えるのを止め、
ひとまずは彼の言葉に強く頷く。
『 さあて、
辛気くせえ話は終わりだぜ。
おい、お前!
ユシュカ王は手を叩いて、唐突に
エスタータに呼びかけた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 へ?あたし?
急に話を振られたウェディは、元々大きなまなこを、さらにきょとんと見開く。
『 お前、大層な竪琴を持ってるみたいだが…
楽師か何かなのか?
『 え、いちお吟遊詩人だけど…
『 吟遊詩人…そりゃあいい!
酒の肴に一曲聴かせてくれよ。
アストルティアの詩を!
『 えええっ!?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
月は高く上がりゆく、砂の街の酒場。
ユシュカ王の大きな声と存在感もあって、
おれ達の周りには、次第に人が集まってきた。
“ なんだなんだ? ”
“ 異界からの客人ですって! ”
” なんでも、アストルティアの
シェラザード(語り部姫)らしいぜ! “
“ 今から一曲やるってよ! “
『 おい…どうすんだ、
シェラザードw
半笑いのツキモリが、肘で吟遊詩人を小突く。
見ればさすがのエスタータも、椅子に座ったまま
小刻みに肩を震わせている。
…かと思ってハラハラ見ていたら、
『 くぅ~!
燃ぉおえてきたああーーッ!!!
突如背びれをピンと立て、吟遊詩人は
勢いをつけて立ち上がったのだった。
『 武者震いかよ。
『 あいつ…大物なるわ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
エスタータが咳払いし、
竪琴を三つ爪弾く音と同時に、
ざわついていた酒場を静寂が支配しはじめる。
十分に静かになった所で、彼女は口を開いた。
____ファラザードは砂漠の国でありますが…
アストルティアにも、
砂漠の国がございます。
そんな縁あって今宵語りまするは…
【砂漠の狼王の、冒険と恋の物語】____
………エスタータの曲の技術は、まだ発展途上。
最初は固唾を飲んで見守っていたが…
街の人達のノリが良いのか、
意外とウケは良いようだ。
彼女が一曲謳い終わると、拍手と喝采が
場を支配し、その流れのまま、酒場は
盛大に宴ムードとなったのだった。
どこからともなく、おれの手元にも
酒のコップが回ってくる。
『 良い街だろう?
酒瓶片手に語りかけてきたのは
ユシュカ王だった。
『 ですな、素晴らしい。
浄、不浄…異邦も無法も併せ呑む。
特におれ達冒険者にとっては、
過ごしやすい国かもしれない。
『 これからの時代は、アストルティアとの
交流にも力を入れていきたいと思ってる。
お前ら冒険者は、その先駆けさ。
今後とも色々頼むぜ?
『 はは…参りましたな。
まあ、おれで力になれるなら、
なんなりと!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
赤毛の王と、酒を酌み交わす。
砂漠の夜は、賑やかに更けてゆくのだった。
~つづく~