『 …おい、お前ら勘違いするなよ…!?
僕はほんの少し驚いただけで、
別にそんなにビビっていたわけじゃ…
『 うんうん、わかるー。
怖かったもんねぇあの仮面。
『 聞けよッ!!
…街門を抜け、正式に
【旧ネクロデア領】へと到達したおれ達。
ツキモリとエスタータ、二人の賑やかなやりとりを
ラジオ代わりに、男爵の屋敷跡の座標を目指して
領内を行く。
ツキモリが あの不気味な仮面に
あれほど驚いたのは少し意外ではあったが…
付き合いも長くなると、なんとな~く
彼の本質も、分かってきた気もしている。
ツキモリは…魔族と言うだけあって
おれ達の何倍も長く生きてきたらしいが…
【魔族と言う種族の括りの中では】おそらく、
まだまだ少年と言って良い年頃なのだろう。
きっと荒めの語気も、ぶっきらぼうな態度も。
そんな少年が、世間を渡り行くに当たって、
軽く見られない為に身に付けた『仮面』…
言わば処世術のひとつであり、それは彼の
『本質』とは、また違った側面なのかもしれない。
( うむうむ。そう考えたら、
少しは可愛げあるように見えるじゃない。
彼らの後ろを歩きながら一人、
腕を組んで目を細める。
『 おい鬼!
生暖かい目で見てんじゃねえ!
きめェんだよッ!!
何かを察したのか、
ツキモリが急に振り返って怒鳴る。
おれは表情を変えないまま、片手を上げた。
『 おうすまんw
『 その目をやめろっつってんだよ!
ったく、どいつもこいつも…!
そのまま特に滞りなく、旅は続く。
亡者達の襲撃を想定していたのだが、
今回はそれも無く、少々拍子抜けである。
しばらく歩いた所で、エスタータが
あっと声を上げた。
『 ねえ、何だろあれ!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 墓…?
崖沿いの一角に、幾つかの、墓標らしきオブジェ。
そしてそれを取り巻くように、
アストルティアではあまり見かけないような、
白く小さな花が群生している…
もっとも、元々花に詳しいワケじゃないので、
おれが知らないだけかもしれないが。
『 綺麗な花も咲いてるね。
自生?それとも誰かが植えたのかな?
『 こんなゴーストタウンにしちゃ、
妙に手入れが行き届いてるように見えるぜ。
『 そうかなるほど、もしかしたら…!
思えば、目的地の座標まで随分近づいているはず。
現在地を確認しようと、ファラザードで貰った地図を取り出そうとした、丁度その時だった。
『 おや、
生きた人間の来訪者とは珍しいな。
突然背後から声をかけられ、
一同、一瞬背筋が凍りつくが…
『 ちっ、亡者か!?
ったく心臓に悪ィ場所だな!
『 待てツキモリ!!
殺気立って短剣を抜き放つ魔族を、慌てて諌める。
そう。おれは、この声に聞き覚えがあったのだ。
振り返ると、馬に乗った、
見知った人影があった。
後ろに巻いた長い銀髪。
その頭を彩るは、羽根付きのノーブルハット。
スカーフを襟元に、紺のコートをひるがえし、
小盾を腕に通し、馬上槍を携える。
ガートラント騎士顔負けの、勇壮なるその姿。
間違いあるまい、彼だ。
こうもすんなり再会できるとは、ありがたい。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 お久しぶりです、デッドリー男爵!
『 君は…おお、ザラターン君か!
再会の挨拶を交わすおれ達を一目見た後。
ツキモリとエスタータはしばらく
顔を見合わせていたかと思うと、
異口同音に叫んだ。
『 【しにがみきぞく】じゃねーか!!
『 【しにがみきぞく】じゃん!!
『 ああ悪い、説明してなかったか…
この人が件の…
『 …君達。
人を見るなり、いきなり
しにがみきぞく とは…
いささか失礼ではないかね?
私は……
男爵の目に、紅い眼光が灯る。
やばい、二人の態度が気に障ったか!
『 そ、そうだぞお前ら!
デッドリー男爵はな!
かつてはネクロデアに仕えた
魔族の騎士で…!!
慌てて場を取り繕おうとするも、
男爵の眼光は強くなるばかり。
なんてこった。
『 いいか、私は……ッ!!
男爵は語気を強め、
大きく息を吸い込んだ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 【しにがみきぞく・強】だっ!!
わっはっは!!!
『『『 ………… 』』』
『 わっはっは!!!
木枯らし吹くネクロデア。
デッドリー男爵が、白い歯をカタカタ鳴らしながら
笑う声だけが、いつまでも、いつまでも
鳴り響いていた。
~つづく~