『 か、身体で払って貰う!?
ベルトロの言葉に、
おれは大仰に赤面してたじろいだ。
『 おいおい、
律儀にノッてくんじゃねぇよ、気持ち悪い。
『 ひどい言われようだな。
『 文字通りの意味さ。
魔界大戦に端を発する一連の戦いで、
ウチも大きな痛手を被ったってんで、
新兵の育成も兼ねて、新しく練兵場を造ったは
いいんだけどよ。
どいつもこいつも平和ボケで、
驚くほど利用者が少ねえ有り様なのさ。
このままじゃ、責任者の俺の
首が飛びかねねぇのよ。比喩じゃなくな。
ベルトロは苦笑いしながら
手の平で首を掻っ切るしぐさをした。
バルディスタの魔王は
恐ろしい氷の魔女と聞くが…本当なのか。
『 なるほどね。
だから練兵場を盛り上げて、少しでも
兵達の興味を引いて士気を上げようと、
偶然のこのこやって来た異界からの
珍しい旅人に白羽の矢を立てた、と言うワケだ。
『 ご明察!
てなわけでヨロシク頼むぜぇセンセー?
成績次第で、ご所望の品を
贈呈するからよ!
『 期待に応えられるかは分からんが…
背に腹はかえられん。
どうにかやってみるさ。
…と言ういきさつで槍を取り、
気合いをみなぎらせて
おれは練兵場へと向かったのだった。
そして慣れない戦場、慣れない敵に
四苦八苦する事、数分間。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 Aランクか!
なかなかやるじゃないか、アンタ!
ウチでも、将兵クラスでなけりゃ、
この得点は出せんぞ。
受付の男と、取り巻きの新兵達が感嘆の声を上げる。どうやら、ゲストとしての面目は
最低限、保てたようだ。
“ アストルティアの戦士も
なかなかやるもんだな。 “
“ ベルトロ様よりは強いんジャネ “
小声で囁く新兵達を睨みつけ、
『俺の強みは腕っ節じゃなくてココなんだよ』と、
頭を指差しながらベルトロが歩いて来た。
『 なかなかやるじゃねぇか、センセー。
…でもなあ…お前さんの戦いは…
なんか…こう…地味なんだよなァ…
堅実過ぎるっつーか…
『 えー!?
まさかのダメ出し。
だが彼は我が戦いを良く見ている。
確かに、失敗を恐れるあまりに
慎重になりすぎ、見せ物としては
面白味に欠ける戦法だったかもしれない。
『 悪りぃが、冥曜石にはまだ足りねぇなあ。
もう1つ上…せめてSランクくらいは
目指してくれよ。
『 くっ…!
分かったよ、見せてやるぜ、
おれの本気をっ!!
そう うそぶいて、再び戦場へ。
だが…結果は少しだけスコアを伸ばしただけで、
劇的には変わらなかった。
『 どうした兄弟、お前のチカラは
そんなもんかァ?
そんなんじゃ、冥曜石は諦め…
『 まだだ、もう一回!!
ベルトロの煽りに鼻息荒く、
おれは三度、槍を取って立ち上がる。
そこに…さっきから観客に徹していた
エスタータが とことことやって来て、
とんでも無い事を宣い始めた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ね、あたしも一緒に出ていい?
『『 えっ? 』』
突然の提案に目を丸くする、おれとベルトロ。
『死ぬぞ、くそ雑魚ナメクジ』と、
座った目で言い放つツキモリに、彼女は
振り返ってVサインを出し、
そして自信たっぷりに微笑んだ。
『 大丈夫。攻撃避けるだけなら簡単だし。
…明らかに戦闘慣れして無さそうな、
華奢な身なりのエスタータの発言に、
兵士だらけのエントランスは騒然となった。
“ か、簡単だとお!? “
“ 地獄だぞあそこは…! “
“ アイツ戦場を舐めてんじゃねェのか? “
…異様な場の空気を、
ベルトロの乾いた笑い声が制す。
顎に手を当てながら、
彼はエスタータを見定めるように目を細めた。
『 これこれ、こういうのが面白えのさ!
そこまで言うならやってみるかい、
嬢ちゃん!
かくして吟遊詩人の参戦が
決まってしまった。
『 どうなっても知らねぇぞ、僕は…
なんやかんやで心配顔のツキモリ。
おれは身を屈めて、隣のエスタータに
小声で問いかけた。
( なあ、一体どう言うつもりなんだ?
( ままま、いーからいーから。
それよりさ…
逆にエスタータが耳打ちしてくる。
『 !?
…その内容は、にわかに信じられないものだったが…でも、不覚にもなんだか『面白いな』とも
思ってしまう。
結局、決して無理はしないようにという約束で、
おれは彼女の提案を飲む事にした。
…そしておれは吟遊詩人を伴い、
三度戦場へ赴くのだった。
~つづく~