『 あれぇ…?っかしいな…
棚と睨み合って、ベルトロが唸る。
…興奮冷めやらぬ練兵場から移動して
今、おれは彼に連れられて、
城内にある倉庫に来ていた。
理由は勿論、約束の『冥曜石』を
受け取る為なのだが…
何だか嫌な予感がしながらも
おれも何げなく、棚に陳列されている品々を
物色してみる。
が…やはりそれっぽい物は見当たらない。
『 確かこの辺に
保管してあったはずなんだけどよ…
ようウェブニー、この辺に冥曜石って
置いてなかったっけ?
ベルトロは、偶然倉庫に居合わせた
ドレッドヘアのプクリポ系魔族に声を掛けた。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
ウェブニーと呼ばれた女兵士は
ベルトロの顔を一目見るなり、
その愛らしい瞳からは想像できないような
怪訝な表情を作って口を尖らせた。
『 なに寝言言ってるんでシュル!
アレはこないだ、泥酔したベルトロ様が
『さ、酒場…酒場のツケがァ~~』
とか言いながら、図々しクモ勝手に
持ってっちゃったんじゃないッシュか!
『 えっ、そうだっけ?
全っ然、記憶にねェんだけど…w
ウェブニーの迫真の声マネに、
ベルトロはすっとぼけた顔で
後ろ手に頭を掻いた。
『 ベルトロさあん…?
ニッコリと微笑むおれ。
ベルトロは微笑み返しで舌を出し
片目を閉じて応える、が…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
…表情と裏腹に、ゴキンと音を立てながら
わなわなと震える我が腕を見るなり
慌てて態度を改めたようだ。
『 ま、待て待て…!
本当に記憶がねェんだって…!
だが、反省する気はあまり無いらしい。
おれは白い目で、同じ表情をしたウェブニーと
顔を見合わせた。
『 シュみません、この人
いっつも こうなんでシュル…
『 コレはアレじゃないのかい?
『備蓄品の私的流用』ってやつ。
『 まったクモってその通り!
今日~という今日は
ヴァレリア様に報告しなイト!
ああ!自分で言ってて恐ろしクモあり、
でもでも~、ちょイト見てみたクモあり…?
悪い顔で囁く我々を目の当たりにして、
ベルトロの元々青い顔が
さらにみるみる青ざめてゆく。
『 ウェブニーちゃああんッ!?
そ、それだけは!それだけはーッ!!
悪かった兄弟!俺が悪かったって!!
許してくれ頼む、この通ォォりッ!!
そう叫びつつ、ジャンプからの
鮮やかな土下座をキメたベルトロを見て
おれはつい、吹き出してしまう。
まったく、どこまでも憎めない男である。
慣れっこらしいウェブニーも、目を糸のようにして
ため息を吐いたのだった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 冥曜石?
ああ、あの真っ黒な宝石ね!
確かにこないだ、ベルトロさんが
溜まった支払いの代わりに
持って来たわ!
でもぉ…趣味じゃないから、
酒場に来た行商の人に売っちゃった。
冥曜石の足取りを追って酒場に寄ってみる。
お客の少ない時間帯だったからか、
運良く看板娘らしき女性に話を聞く事ができた。
『 そうか…
行商が次に何処に行く、とかは
知らないかな?
『 そぉねえ?確か…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ゼクレスだ?
…酒場での聞き込みを終えて、
待たせていた二人と合流する。
ツキモリが気だるそうに呟いた通り…
冥曜石を買い取った行商人は
『ゼクレス魔導国』へと向かったらしい。
『 ああ、こうなりゃ
とことんまで追ってやるつもりさ。
もう少しだけ付き合ってくれるか。
『 もち、あたしは行くよー
もっと色んな所、見てみたいし!
ベルトロから『冥曜石の代わりに』とせしめて来た、小ぶりの宝石が幾つか入った皮袋を覗き込みながら、ホクホク顔でエスタータが応える。
ツキモリは腕を組んで
少しの間、何かを考えていたようだが…
結局は了承してくれた。
要塞出口にて。
出立する我々を、
なんと練兵場の新兵たちが
見送ってくれる。
『 おう、もう行くのかお前ら!
俺らも負けねえように
鍛えるとするぜ!
『 あたし今度パラやってみようかな!
『 じゃオレは吟遊詩人!
『 オメーは超絶音痴だろが!
笑い合う兵士達に手を振りながら、
おれも仲間達と顔を見合わせた。
『 バルディスタ…少し変わったな。
『 そうなんだ。
『 前はもっと殺伐としてたんだが…
今は『ガラの悪い体育会系』だな。
『 それは…良い変化…でいいんだよね?
ツキモリの微妙な例えに
吟遊詩人はひとり、首を傾げるのだった。
~つづく~