軽快な靴音が小気味良い。
整然と敷き詰められた、石畳の上を行く。
周りを見渡せば、歴史を感じられる
荘厳な建造物が立ち並んでいる。
…ベルヴァインの森を抜け、
無事ゼクレス魔導国、王都までたどり着いた我々。
しかし王都は今、何やら…
ちょっとした混乱のさなかにあるようだった。
件の行商人の行方を探るついでに
その原因を調べてみれば、
どうやら魔王アスバルが、王国内に蔓延っている、
汚職や収賄等と言った『不正行為』の取り締まりを
一斉に行い始めたため、らしい。
『 良い事じゃん?
『 まあ素直に受け止めりゃ、そうなんだが…
アスバル王が少し心配だな。
屈託のないエスタータの意見に、
おれは腕を組んで答える。
首を傾げる吟遊詩人を一瞥して、
ツキモリも頷き、呟いた。
『 この国の二つ名、知ってるか?
『 へっ?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 【 悪意の都 】だ。
闇の『根』が深ぇんだよ、
色々とな…
7500年もの歴史を誇るゼクレス魔導国。
この国を今日まで、強国として成り立たせ、
守り続けて来たその根幹には、
『血統主義』の貴族社会による、徹底した
『保守的思想』があると言われる。
汚職や収賄も『腐っている』とバッサリ切り捨てればそれまでではあるが、でも、それらがもし…
必要悪…良くも悪くも、国の根幹を支える
いわゆる『潤滑油』として機能していたのなら。
新王アスバルの改革…前政権からの
『急激な変化』を望まない者達も、
決して少なくはないだろう。
『 下層民は大歓迎だろうが、
上流階級の多くを敵に回すだろうぜ。
『 アスバル王がやろうとしてる事は、
『革命』と言ってもいいかもしれんな。
例えるなら、暗黒大樹を浄化して、
世界樹に戻そうとするような…
『 えっ!?
そんなヤバいんだ!
しかし、考えてみれば…
本気で『革命』を起こす気なら、
今が絶好の機会でもある。
大魔王の名の下に
魔界が一つになりつつある今ならば、
他国に攻め入られる心配も無いし…
それどころか大魔王や、魔界各国の協力を仰ぐ事も
不可能ではあるまい。
それに魔王アスバルは滅神を斃し、
大魔瘴期に終止符を打ったと言う、
奇跡的な功績を持つ英雄の一人でもある。
保守派の貴族達の中にも、各々の思惑はどうあれ、
アスバル王を『勝ち馬』と定めて
手の平を返す者が現れたとして、
なんら不思議は無いだろう。
それらを考慮しても、
国の舵取りは至難を極めそうではあるが…
『 でもあの魔王達とエックスさんなら案外、
暗黒大樹をぶっこぬいて
世界樹を植樹するくらいの事は
やってのける気もしてきたなあ…
楽観視で笑うおれを見上げ、
ツキモリは呆れ顔で肩をすくめた。
『 ふん、とりあえずは
魔王アスバルのお手並拝見、だな。
ま…この国がどうなろうが、
僕にはもう、関係の無い事だけどな。
『 …それでも!
エスタータが急に大きな声を上げる。
何事か、と視線を向けるおれ達。
彼女は真面目な顔をしていた。
『 それでも…
もう出てこないような国になるといいね。
……ツキモリみたいな、かわいそうな子。
…しばしの沈黙のあと、
ツキモリはそっぽを向いて
鼻を鳴らすのだった。
『 ……ふん…
まあ…そうだな…。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
その後も『冥曜石』の足取りを追って
王都を歩き回り…
おれ達は運良く、件の行商人と出会う事ができた。
のだが…
行商人は、良い商売ができたのか、
ニコニコ笑顔で語る。
『 ああ、あの冥曜石なら、ついさっき
競売に掛けられて…落札したのは確か
ベラストル家の方でしたかねぇ!
『 べ…ベラストル家だァ!?
『 ええ、ええ。
いやはや、この国での商いも、随分と
やり易くなりましたよ。
魔王アスバル様々ですなあ!
驚くツキモリを気にも掛けず、行商人は
笑顔のまま答え、上機嫌で去って行った。
はてベラストル…聞いた事がある気もするが…
思い出そうとしていると、
ツキモリがゲンナリした顔をする。
『 おい、鬼…最悪だぞ。
悪い事は言わねぇ。石は諦めろ。
『 えっ!?
『 ベラストル家は…ゼクレス貴族の中でも
名門中の名門で…
ついでに現当主のリンベリィって奴は、
相当なワガママ娘で有名だ。
僕らが会いに行ったとしても、門番に
ゴミを見るような目で門前払いされて、
胸糞悪くなるのがオチだぜ。
『 リンベリィ…ああ、思い出したぞ。
あ…あのお嬢様かあ…
先行きに、暗雲が立ち込めてきた。
~つづく~